HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

日銀のレポートは意図的に死滅と生成について書いてない

sacred_starさんから大変興味深い日銀のレポートを教えていただいた。ほんとうにありがとうございます。

金融ネットワークをグラフ理論、複雑ネットワーク理論から読み解いたらどうなるか、金融収縮のショックウェーブがどのように広がるかのシミュレーションと盛りだくさんな内容で興味深かった。日銀のレポートでクラスター係数がどうのという話を読む時代が来るとは思っていなかった。ある意味、ブラックスワンの片羽をとらまえたとはいえる。

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ちなみに、以前クラスター係数などを含むネットワーク関係としてナウシカを分析した。この時、つくづく思ったのはクラスター係数とは、「友達の友達も友達である確率」というか、いかに自分が濃いネットワークの中にいるかを示す係数だと思った。分析ではそこまでやらなかったが、ナウシカの物語では全然別のところからスタートした登場人物たちが最後にはほとんどみんな知りあいになりナウシカをハブとするネットワークができてしまうわけだからだ。

いずれにせよ、アニメに、世界金融にと、ネットワーク分析の手法が普遍的に役立つことがまたひとつ照明されたことはよろこばしい。

しかし、元の日銀レポートにもどれば、どうも消滅と生成という動的なネットワークでとても大切な観点がまだ入っていないように感じた。

多くの進化、絶滅を数理生物学的なモデルで近似するとき、あるいは化石生物の歴史をたどるとき必ずべき乗分布が出てくる。私はこれは、「餌場の取り合い」の結果であり、かつべき乗分布する生物種の多様性などが種として、いや生命全体として存続していくのにとても大事な形であるからだと感じる。

この意味で、前述の企業の生成と消滅ともかかわるが、企業規模の分布というものがべき乗分布であることは非常に興味深い。これはまた、何ホップかで企業全体がつながっているということと表裏一体の事実であるようにも感じる。

資本主義のメカニズムをネットワークでよむ - HPO:機密日誌

切込隊長さんが「戦争はこれからだ」(参照)とおっしゃるのも、日銀のシミュレーションがセカンド・インパクトをせいぜいが貸出量の調整にすぎないとして、この血のしたたるような企業の生成と消滅のダイナミクスにふれていないことをおっしゃているのかもしれない。

*1:見落とされがちかもしれないけど、下巻の用語集はとてもよくできていると思う。