「この世界の片隅に」秘められたすずさんの想いを、なかなか言葉にうまくまとめられないでいる。言いたいのは、映画版でも、マンガ版でも「この世界の片隅に」の最大のクライマックスは終戦の詔の玉音放送を聞いた後のすずさんの言動であること。
すずさんは玉音放送を終えて、叫ぶ、はじめて激しく叫ぶ。我慢に我慢を重ね、最愛の姪を失い、大好きな絵を描くことの出来た自分の右手を失い、故郷も両親も失い、それでも必死に生きてきた。最後の一人まで戦えと言われ、すべての人がすべてを犠牲にして戦ってきた。だから、自分も「この世界の片隅」で必死に生きてきた。今更、戦争を止めるなど納得がいかないと。「少なくともここに5人生き残っている!まだ左手も両足もある!最後まで戦え!」と。
マンガ版では、この方がツイットしてくださっている前後のシーンのセリフ。「暴力で従えとったいうことか。じゃけえ暴力に屈するという事かね。それがこの国の正体かね」と。
『この世界の片隅に』そしてさらにその片隅にhttps://t.co/r3eQK71SLt
— PAN太 (@panta_rhei2004) November 5, 2016
「主人公は、遠くの屋根に太極旗がひるがえっている光景を見て、ようやく片隅で生きていた自らも他者を抑圧していたことを知る。『暴力で従えとったいうことか』『じゃけえ暴力に屈するという事かね』」 pic.twitter.com/I9AAVjSIjO
私は、すずさんの慟哭に吉本隆明を重ねてしまう。吉本隆明はこう書いている。
「わたしは徹底的に戦争を継続すべきだという激しい考えを抱いていた。死は、すでに勘定に入れてある。年少のまま、自分の生涯が戦火のなかに消えてしまうという考えは、当時、未熟ななりに思考、判断、感情のすべてをあげて内省し分析しつくしたと信じていた。」
「神やぶれたまはず」の現人神 - HPO機密日誌
吉本隆明は当時二十歳前後か。すずさんと年齢的には重なるのではないだろうか。このすずさん、吉本の慟哭こそが当時の方々の偽らざる想いであったと受け止めたい。政治的な分析、思想的な批判などは、彼らの想い、嘆きと比べればどうでもいい。
本当に、「この世界の片隅に」は静けさと激しさがある。
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