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HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

和辻哲郎という日本思想の巨人

自分の不明を恥じる。和辻哲郎の「日本精神史研究」のすごさに驚愕するばかりだ。

日本精神史研究 (岩波文庫)

日本精神史研究 (岩波文庫)

道元への肉薄の仕方には感激した。いまは、「現代日本と町人根性」の当時の世界経済の把握、その根っこの把握の的確さに舌をまくばかり。文学、芸能、哲学思想、ばかりでなく、経済学、経済史の理解にも目を見張る。

文庫版の加藤周一氏の解説が実に的を射ている。

今からふり返ってみれば、先駆者の仕事の当時において独創的な面にも、今日では学界の常識となったものがある。・・たとえば『源氏物語』の成立について、今日われわれが大野晋氏を通して知っていることは、和辻が問題を提起した一九二二年当時とはくらべものにならない。・・たとえば「沙門道元」は道元の思想の全貌を尽さない。しかし道元の人格との対決をふまえて、著者が自分自身の言葉で相手の知的世界を批判的に理解しようとした態度は、決して古くならない・・(p.396)。

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正直、長谷川三千子氏は和辻哲郎の平成の鏡だ。氏の「正義の喪失」に収められた福沢諭吉の「文明論の概略」をめぐる言説は、和辻哲郎の「現代日本と町人根性」への展開を経て太平洋戦争、終戦、そして現代へとつながっている。いわば、明治の福沢諭吉、昭和の和辻哲郎、そして、平成の長谷川三千子氏と精神史がつながっている。

高校の教科書レベルの知識にすぎないが、戦後思想、倫理において、和辻哲郎は「風土」のみを誇張して取り上げられることによって、不当に貶められてきたように感じられてならない。私は現代日本人の平均よりは本を読んできたと想うのだが、50才に近くなってようやく和辻哲郎に触れることができた状況というのは、日本の精神史の断絶の結果ではないだろうか。もっともっと和辻哲郎は読まれ、思考され、再評価されるべきだ。