HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

営業マンはヒアリングがお好き

私は自分が優秀な営業マンだと思っている。ま、いまだにそんなことを言っていることこそが自分の問題なのだとわかっているのにやめられない(笑)。私だけでなく長く続く営業マンのほとんどは自負心が強い。これは断言してもよい。自分を信じていないとやっていられない仕事だし、いわくいいがたいのだが営業同士で営業のコツみたいなものを共有しているという妙な感覚がある。その「共有感」をよく刺激してくれる一冊であった。

御社の営業がダメな理由 (新潮新書)

御社の営業がダメな理由 (新潮新書)

いくつか印象に残ったポイントをまとめておくのは、私自身のめでもあり、むだなことではないだろう。

日報よりもヒアリングを中心に営業管理をしろ

これは非常に同感。さすがに撤廃することはやりかねたが、PCで誰でも見れるようになっていてどんなにかかっても15分以内で一日分をかけるシステムを入れている。多分、藤本氏には「誰でも見れる」システムを売り込むよりはご自身の営業コンサルの提案という趣が強いのだろう*1

いや、それよりも大事なのは、「ヒアリング」、「人の話を聞く」ということだ。営業とはこれに尽きるのではないだろうか?営業センスを磨くのも、一日一日の課題を明確にし、確実に営業量を増やしていくのも、「ヒアリング」につきるというのは実に同感する。この辺がいわくいいがたい「共有感」なのだ。

クロージングはベテランの仕事

営業のプロセスはワイングラスのように、大量の営業情報の中から選別されていき、受注に至るのは1%を切ることすらある。ワイングラスのカップの下を取った段階からすら三割受注できれば優秀だといえるのだろう。ここでどうしても最終的なセンスを問われるのがクロージングだ。正直に言ってまじめでさえあればワイングラスのカップの下の段階まで誰でも月に数件*2は持ってこれる。ここから先をノルマを持たない営業のプロが同行営業ですすめろというのが、本書の主張するかなり大きなポイント。

これは実に「そのとおり!」と諸手をあげて賛成したいのだが、ルートセールス的な部分がどうしてもあると営業企画マネージャークラスに担当案件を持たせないということは勇気がいる。それこそ営業コンサルが活躍する場面であるのかもしれない。

優秀な営業マンは採用できない、育成できない。

私も散々いろいろな試みをやってきた口なので、実に同感だ。営業人材が「ベキ分布*3すると書いてある。私よりも先に本に書かれてしまったことに嫉妬を覚えるのだが(笑)、これもそのとおりだと思う。これまで付き合ってきた会社の内外の営業マンの顔が本書にあげられた例のひとつひとつで浮かんだ。ではどうするのか?というのが最大の課題であり、「実質的な行動量を増やす」ということにつきる。

本書でいろいろ書いてあるのだが、訪問件数を指標にした行動計画管理というのが有効だと私はまだ信じている。この辺は藤本氏と議論を交わしたいところだ。

営業とはセンスであり、グランド・デザイン構築力だ。

そのとーり!と言いたい。優秀な営業マンであればあるほど、先へ先へと大きな絵を描いて着実に実行していく。最終的に営業のプロセスとは顧客に幸せになってもらうことなのだ。ま、そしてリピート受注、紹介受注へとつながるのが営業マンとして最高の幸せであるのが、そうなってもらうためには顧客に感動してもらうほどの「問題解決」をしてあげる必要がある。以前お会いした方から聞いた話なのだがある普及品の家電を売るために30ページのプレゼンを作って顧客の前でプレゼンしたことがあるとおっしゃっていた。これはルートセールスではなく、エンドさん対象の1台を売るための努力なのだ。しかも、そのプレゼンの半分以上は製品説明というよりも、顧客の問題をどうこの商品を使うことで解決するかという内容であったという。

自分自身も問題だと感じていることを書き出せばA4の紙がまっくろにうまってしまうほど抱えているだけだから、ことほどさように顧客は問題を抱えている。なんとか解決したいと思っていても、回答にたどりつけないもどかしさを誰もが抱えているのだ。これを大きな視点から解決する絵をかける営業マンは確実に「無理の言える顧客筋」をとらまえることができる。

ま、私のような若輩もの、プライドばかりが高い人間が失礼なことを書いたかもしれないが、それくらい本書には営業マンの間の秘密の「共有感」があった。よい読書体験であった。

■参照

筆者/青草新吾は52.で「藤本篤志氏の提言は30-40人規模の営業組織では極めて適合性が高いような気がします。」として、53.で小集団の有効性に着目する事例として同氏提言「7名以下の小集団でマネージャーが毎日行うヒアリングと同行販売(同氏は同行営業と表現)で知識を伝授していく」を紹介させてもらいましたが、日報に関しては無視させてもらいました。

営業日報に関し、IT日報(SFA)の有用性を説くNIコンサルティングの長尾一洋氏は、「御社の営業がダメな理由」*1の著者の藤本篤志氏のような日報無用論には困ったものだ、と述べておられます。 - 生産財営業のプロセスと心技体−青草新吾の惺々著考

私の中の営業マン・ゴーストが「違う、そうじゃないんだ」とささやいている。

しかし、経営から見ればたしかに日報を紙に書かずにシステムとして取り入れて誰でも見れるようにすることは大事だ。藤本氏はカーボンを入れて日報を書いたころの経験にとらわれているか、意図的に日報をPCに売り込むことはしないことに決めているのだろう。日報をオンライン化し、共有することの効果はいま実は実験中なので、結果がでたらまた書くかもしれない。そうそう、OAに乗りきれないおじさまには資源の無駄だという内面の声を押し殺して印刷して渡してあげるのも大事。

*1:「参照」を参考のこと

*2:ま、業種によるけど一人当たりの件数とかで割ってやると結構こんなもの。

*3:本書では「2−6−2の法則」といっている