ようやく読了した。読んでいる間中、商人として勇気を与えられた。このようなすばらしい方がごく近くにいらっしゃるということを理解していなかった自分が恥ずかしい。
- 作者: 山本素石
- 出版社/メーカー: 立風書房
- 発売日: 1993/04
- メディア: 単行本
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○商業の本旨は物資交流
商売は自分だけ利するというのではいけない。利潤の追求は二の次にして、物資交流の仲介で、世の中の益になることが第一である。この使命を忘れた商売は邪道である。
○時を尊重せよ
「時は金なり」という言葉があるが、金どころではない。時は生命の元であり、「時は神なり」と云いたい。およそ我々日本人ほど時の観念が乏しく、いずれの会合でも時間が励行されたことはない。そのために自他共にいろいろな迷惑をこうむっている。口幅ったい言い分だが、私はその非は主催者側にありと断じたい。いったん各自の申し合わせで集合時間が定まった以上、一切の情実にとらわれず、必ず定刻通り開会することです。お互い忙しい商業者間には特に大切で、私は常に率先してそうするように心懸けている。たとえば支払いをする場合でも、日にちの上に時間まで取り決め、金を用意して待ち、すぐに用件を片付け、暑い寒いの挨拶などはみんな後廻しにする。支払いに限らず、私はいつでも真っ先に要談に移れるようにし、自分の時間もむだにしないが、人の時間もむだにしないように心懸けている。時を惜しみ、時を守るのも大切な商道の一つと考える。
○信用が生命
商人には信用が生命で、これは資金よりも尊い無形の財産である。商人がよく資金のないことを嘆くが、それよりも信用の得られぬことを反省せねばならない。信用保持のためにはいかなる犠牲も惜しむな。支払いの迅速と約束の厳守は、信用保持の第一歩である。それでもお互いに苦しいときは約束に支障を来たし易いので、そういう場合には私は必ず十日前に事情を陳べて先方の諒解を得るように努めてきた。この当然なすべき手続きがなされないので一般に信用が保てなくなるのです。
○ウソは禁物
いつも何事によらず真実でなければならないということは商道の場合も全く同じで、よくウソも方便といって、商売にウソはつきもののように云われているが、これほど大きな間違いはない。上手なウソで言い訳をするよりも、真実をつくし、下手な正直でゆく方がどれほど気易く、また方便としても効果的なわからない。
○顧客と元方を尊重せよ
顧客は商売の目標で最大の恩人であることは誰でも知っているが、元方(製造家・卸問屋)を尊重する考えの人は案外少ない。実は顧客と共に元方あって商売は成り立つものだ。そこで私は常に元方にも儲けていただき、もし値段が高く粗悪品であれば、こちらから取引を遠慮すればいいと思っている。また、従業員に対する考え方としては、私はや張り元方に準ずるものとしている。
○儲けるは邪道・儲かるこそ王道
一体に事業による儲けは、儲けようとするから儲からぬ。どうしたら人様に儲けていただけるか、どうしたら利益を得ていただけるかを考えることによってはじめてこちらも儲かってくる。利他即利自、これが逆になっては天地自然の法則が許さない。財貨の掻き込みに走るのは動物的で邪道、設けるは権道、知らずしらずのうちに儲かる事こそ大自然の道に適った王道、その末はきわめて長い。
○己に薄く、他に厚く
すべての利益は八分をよしとする。十分を望むは欲。やがてその欲望が滅亡の因となる。花や実を取るよりも、まず善種をまき、根を肥やし、己に薄く他に厚く、歓喜力行してその本分に励まなければならない。
○拝むことと戴くこと
拝んだり戴いたり、両手を合わせて感謝の心を表現できるのは人間のみに与えられた特権だ。この合掌の心持を生活に行えば、生活は安定し、商売に行えば、その商売は必ず立派に立ってゆく。私はひたすらそう考え、そういう気持ちで努力している。以上が私の商売道、繁栄道、子孫安泰の道であって、すなわち常に神と共にある生活ではないかと信じます。