少し前から「小さいおうち」を読んでいる。映画公開の時は、よくある山田洋次のヒューマニズムなホームドラマかなと思い見る気になれなかった。それでも、予告編の松たか子の「奥様」役は大変印象に残っていた。読み始めてみても、松たか子に「重ね読み」してしまっている。
- 作者: 中島京子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/12/04
- メディア: 文庫
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物語は「女中」の「タキさん」が語る戦前から始まる。タキさんは、「この世界の片隅に」のすずさんと年齢がかさなるはず。今読んでいるのは、昭和15年の紀元節を祝ったあたり。当時がいかに平和で、いかに普通の日常がおくられていたかが、当時のさまざまな風物とともにたんたんと語られる。ブリキのおもちゃや、画集、漫画、奉祝曲コンサート、展覧会などが触れられる。大城のぼるの「火星探検」、ぜひ読んでみたい。
大城 のぼる
アメリカを除く5ヶ国から以下の作曲家に依頼され、曲が提供された。
皇紀2600年奉祝曲 - Wikipedia
- ブリテン(イギリス、当時アメリカ在住) - シンフォニア・ダ・レクイエム(鎮魂交響曲)
- ピツェッティ(イタリア) - 交響曲イ長調
- R.シュトラウス(ドイツ)- 日本建国2600年祝典曲(皇紀二千六百年祝典曲) 作品84
- イベール(フランス、当時イタリア在住) - 祝典序曲
- ヴェレシュ(ハンガリー) - 交響曲(第1番)
―戦時中の庶民の生活や心情がリアルに表現されていると評判ですが、当時のことはどのように調べたのでしょうか?
具体的に書くためにその頃流行ったものや生の声を知りたくて、新聞、雑誌、日記、回想録などを読みました。永井荷風の『断腸亭日乗(だんちょうていにちじょう)』など作家の日記からは、当時の人たちが何をして何を考えていたかがわかります。
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受験雑誌『蛍雪時代』の当時の号で「『撃ちてしやまむ』の品詞分解をお願いします」「『撃ちてしやまむ』は英語ではなんと言いますか?」といった投書を見つけた時にはちょっと笑っちゃうとともに驚きましたね。『撃ちてしやまむ』とは開戦当初の標語なんです。
また、女中がどの家にもいたので、雑誌に「我が家の女中自慢」というコラムがあったんですよ。「宅の女中は、女学校を出ていて息子に勉強を教えてくれます」「料理が上手です」といった奥様の投書が毎月掲載されているんです。いい女中のコツを見つけると「これはタキちゃんにやらせよう」と拾い集めました。八百屋の紙袋を風呂の焚き付けにせずにきれいにたたんで返すと、いい女中だと思われて野菜を多く持ってきてくれるとかね。
この紀元節の後、「奥様」である「時子」の恋愛に入っていくのだろうと予感させるくだりもある。
本書と、「戦争まで」、「この世界の片隅に」を重ね合わせると、なにか太平洋戦争突入までが国のレベル、庶民のレベル、帝都と地方と立体的にかつカラーに感じられる。