HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

「10年後も中国人に爆売りする方法」

タイトルは明らかに編集がつけたと想われる。本書は正統に、中国からのインバウンド需用にどう対応していくかを論じている。

10年後も中国人に爆売りする方法

10年後も中国人に爆売りする方法

確か、本書はウェブ上の情報で購入を決めた。しかし、その出典が思い出せない。元ブログ主に感謝したい。本書の内容は中国人観光客だけでなく、インバウンド全体に適用可能な「原理原則」を表している。著者の序文にこうある。

本書では、マクロ統計だけでは見えてこない中国人の経済状況や、インバウンドの実情を解説すると共に、具体的な対応策について話しています。知られざる中国人の消費性向や今後目指すべきインバウンド・マーケティング戦略も詳しく紹介をしています。

本書のカバーする領域は広く、医療ツーリズムも同様に統計で現れない部分まで本書で語られている。

「統計だけでは見えてこない中国人」を、例えば本書のインタビューで株式会社シートリップジャパンの梁社長はこう表現している。

私は何度か経験があるのですが、中国社会で大成功された年配のお客さんを連れて京都や奈良に行って、法隆寺を見てもらうとすぐに涙を流します。何百年も前の土の壁を見て、10分くらいずっと涙を流している人もいる。また、奈良の博物館を見学して出てくると「展示してあるのは、どれも中国のものです。日本にあって本当によかった」という人もいます。彼らは、戦争や奪い合いについて不平を言っているわけではなく、「日本人に大事にされていよかった」と言っているんです。逆に中国に残していたら文化大革命で全部なくなっていたでしょう。

本書は2016年4月の出版だが、著者はすでに「爆買いバブルは今年で終わる」と喝破している。実際、私が昨年7月に羽田空港国際ターミナル見学に行った時点で免税品引き取りカウンターはがらだらだった。越境ECの発達もあったろうが、ほんの1年前には免税店ではかごに2つも、3つも、電化製品をいっぱいにつめて買っていた中国人の姿を想うとあまりに変化は激しい。

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では、どうしたらよいか?本書に指摘されるまでもないかもしれないが、個々人へのおもてなし、中国人向けでなく日本人向きのおもてなし、サービスをインバウンドのお客様に提供することだと。

中国では、スマホは情報を収集するだけでなく、むしろ情報発信でよく使っています、彼らは自分で写真を撮ってSNSにアップし、どんどん情報を発信しているのです。そこには中国人の気質が大きく関係しています。彼らは、自分の体験したことを「自慢したい」「多くの人に知ってもらいたい」という欲求が強い。だから、1秒でも早く、一つでも多くSNSにアップしようとします。
(中略)
そして、中国人はマスコミからの情報を信用することはほとんどありませんが、SNSの口コミによる情報に非常に興味を持ち、有名なブロガーや自分の友人や親類からの情報こそを信じています。

あるいは、映画に取り上げられることが大きいと。一番手っ取り早い地元観光の手法は中国の映画をその場所で撮ってもらうことだとまで言い切っている。例えば、タイ人で成田空港が人気があるのもタイの人気俳優が出た映画で舞台になったからだと聞いたことがある。

また、ファンづくりのためにはも、インバウンドだけでなく、工芸品や、日本食のアウトバウンドが必要だと指摘する。例えば、偽物ではなく本物の寿司職人、本物の寿司の具材を中国や、タイで展開する飲食店を国をあげてバックアップする。成田が取り組んでいるように、本物の食材をスピーディに輸出出来る体制を整えることなどが、文化のアウトバウンドにつながり、寄せて返す波のようにインバウンドにつながると。

民泊についても触れているがそれは稿をあらてめ別の機会に論じたい。最後に触れておきたいのは本書が指摘する医療インバウンド。

医療インバウンドで訪れる人の中でも特に増えているのが、中国人です。「国際医療交流の取り組み状況に関するアンケート」(2012年)によると、居住国別の外国人患者の受入人数では、2012年度も2011年度も「中国」「韓国」「ロシア」「米国」からの受け入れが多く、特に「中国」はどちらの年度も全体の約半数を占めているのです。(中略)私は中国の人に関する医療インバウンドのチャンスは地方にこそあると想っています。すなわち、「地方で人間ドックと観光をセットにして中国人に提供する」のです。

この流れの中で成田の取り組みに触れてもらっているのは嬉しい限り。

こうした中で、国家戦略特区に指定されている千葉県成田市国際医療福祉大学の医学部新設の計画が認められました。医学部の新設は東日本大震災からの復興目的を除くと実に38年ぶりとのことです。教員や学生も海外から受け入れ、多くの科目で英語で授業を行うと聞いています。外からの患者に対応できる医師を育成し、医療インバウンドの拡大を図る。既存の医師会の発想ではできないことです。こうした取り組みを積極的に進めていくことが今後の日本の医療業界の突破口であろうと思います。

日本の人間ドックの素晴らしさは多くの人が認める。特にPETの需用があるらしい。

「この前日本で人間ドックにかかったけど、あれだけの検査を半日で終わらせて、高級ホテルのシェフのランチが食べられるなんて驚異的!米国で同じことをしようとしたら、1週間かかって、金額も3倍、4倍かかる」と。なんでも人間ドックにかかろうと想うと、日本以外ではX線ならこころ、MRIならここ、胃カメラならここと、何カ所も病院をまわらないとならないらしい。

There ain't no such thing as a free lunch! - HPO機密日誌

うちは(旅客機の)クルーの方も利用されています。そういう方々の中には、日本で医療を受けると会社の保険が使えること、自国の医療が信頼できないこと、日本の薬は大変効くと評判なことなどから、わざわざ夜に病院に行きたがる人がいます。ほぼ毎日何人かいらっしゃるので、ナイト勤務のスタッフがアテンドすることもあり、大変です。昼間だったらタクシーなどで行ってもらうのですが。

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なにはともあれ、人口減少の日本でこれからも伸びていくことが予想される数少ない産業分野が観光だ。よくよく勉強し、見て、しっかりと取り組んでいきたい。