HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

「おらおらでひとりいぐも」

映画が話題だったので、本屋で買ってきた。正直、あまり期待してなかった。しかし、本書には女性の人生一個分があますことなく描かれていた。いや、もっとかもしれない。すごい小説だった。

といいつつ、どこからこの小説を紐解いていいのかわからない。なにせこの小説の登場人物は桃子さんほぼ一人。小説の九割は独り言みたいなものなのだ。だが、その「独り言」が母としの女性、妻としての女性、娘としての女性、孫としての女性、更には歴史的存在、もっと言えば集合的無意識の女性、地球史の中の女性のようにどんどん深まっていく。ちょうど「テンペスト」で描かれた「女性」は娘、社会人、妻、恋人、母として、それぞれ分離された役割としての女性だったのと対照的。しかも、桃子さんの「老い」によって様々な「女性」像が統合されていくように感じられる。

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桃子さんの聴く「声」、桃子さんの思考の深まりに芹沢光治良の作品を思い出してしまうのは、私くらいだろうとは思う。

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晩年には、「文学はもの言わぬ神の意思に言葉を与えることだ」[1]との信念に拠り、"神シリーズ"と呼ばれる、神を題材にした一連の作品で独特な神秘的世界を描いた。

芹沢光治良 - Wikipedia

ここまでの深みを持つ小説を一体どうやって映像化したのは、興味深いが失望するリスクが高そうなので見るのはやめておく。ああ、そう、私もちょとだけ「声」が聞こえ、景色が美しく見えた人生の瞬間があったことは書いておく。