HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

TENETの残された謎:おかわり、二杯目!(ネタバレあり、結末あり)

とうとう二回目見てきた!多くの方がおっしゃっているように、二回目見てものすごく分かった気になった!「認知」が変わるだけで、こんなにも見え方変わる映画って不思議!

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クリストファー・ノーラン監督は、私と同年代の1960年代生まれ。私自身もそうなのだが、映像作品から多くの刺激を受けている。ご本人が認めているように、007はもう街中のかっこいいおじさんくらい当たり前の存在だし、"12 Monkeys"も「映画見る人なら常識」の範囲だと認識している。改めて、随所に"12 Monkeys"の影響を見た。例えば、ウェブなどではヒロインが「キャット」と呼称されているが、映画では「キャサリン・バートン」とノーラン作品の常連のマイケル・ケイン分する「クロスビー」が明確に言っていた。「キャサリン」は"12 Monkeys"のヒロインの名前であり、時間が交錯して展開してく物語の帰結として目の前で恋人が殺されエンディングを迎える。

さらに、本作の「時間の逆行」(実際はエントロピーの減少)は、映画好きだから出てきた発想だと信じる。ここは、ノーラン監督の名前を世界に知らしめた「メメント」と同じだ。「メメント」は映画でしか表現できない作品だ。エントロピーうんぬんは後から出てきた発想だと信じる。でもなければ、時間の順行から逆行への移行が円筒自動ドアのようなものをくぐっただけで達成できるわけがない。映画の中で主人公に「時間逆行」を説明するバーバラが語っているように第三次世界大戦、人類の滅亡クラスのエネルギーが費やされなければあり得ない。よしんば、本来量子レベルの減少を最初に出てきた「弾丸」程度を逆行時間に送り込めたとしても、人間のような生物の時間の逆行させるには地球を砕かなければならないほどの手間とエネルギーが消費されなければならないだろう。「時間逆行」はどんなに物理学者の指導があったとしても、ノーラン監督の中では前に進んだり、逆戻りしたりする一本のフィルムに過ぎない。

 

最初にも書いたように、二回目によくよく「調査」した上で見直すとこんなに物語の印象が変わる作品はこれまで体験したことがなかった。ノーラン監督がインタビューで語っていたようにM.C.エッシャーのだまし絵のように、認知によってまったく絵柄が違って見える。一回目では「えっ?」と思った小さなシーン、ガジェットが二回目では全体でつながって見えた。

そう、最初見た時にこの物語の核心は"12 Monkeys"のように主人公とヒロインの男女の愛がテーマだと思っていた。二回目に見て、男と男の友情の物語なのだとやっとわかった。そもそも、最初のオペラの場面で主人公を助ける逆行弾を使う人物は、ニールだったと。この人物のサックにちゃんとニールの赤い糸と丸い輪がちゃんと出てきている。この場面に戻るために、ニールはわざわざ戻ってきたのだ。

 

そして、キャット・キャサリンの息子のマックス、マクシミリアン、MaximilienからNeilなのだと確信できたのは、ボンベイの映画進行の上の最初の対面のシーン。ダイエットコークではないというのは、Protagonist、無名の男のブラフなのだと気づいた。後で述べるように、ラストシーンもMaximilien = Neilを示唆している。

一回目では、なぜセイター?なぜ未来か過去に向かって書類や金を送れる?と不思議でならなかった。セイターが選ばれたのはスタルクス12で核弾頭探しの仕事をしていたからだと。「記録」としてそれを知っていた未来人が「逆行」タイムカプセルでセイターの名前の入りの契約書を送りつけ、それをセイター見つけた「時」にこの物語は始まった。金が送り込まれたカプセルも、最後の究極兵器も同じカプセルだった。未来から過去の因果を変えられるのはなんとも違和感があるのだが、映画のルールでこれは受け入れざるを得ない。順行し逆行する一本のフィルムのように時間が巻き取られている。「エントロピーの減少」による時間逆行という設定について言えば、そもそも反物質的な存在になっているので、別に自分自身と会わなくとも、順行時間の空気に触れただけでE=MC^2のエネルギー解放になるのでは?そもそも、この映画は平行宇宙論を受け入れ、たまたま全てが上手くいった「世界線」なのだとしか受け止められない。

 そして、最終シーン。当初、疑問だったのは、セイターがヴェトナムの豪華ヨットの時点で二人いないか?という部分。これは、この映画がタイムトラベルなのではなくて、順行時間と逆行時間で交叉して作られていると考えることで納得できた。セイターが日本に飛んで言っている間の時間をわざわざその先のセイターが選んで時間の逆行、順行を繰り返しヘリコプターで飛んできていたのだ。だから、「最新」のセイターが死んで死体が隠されても、映画ではイタリアで出てくるセイターが日本から戻ってきたのだと考えればつじつまがある。

ただ、ちょっと不思議なのは豪華ヨットが2週間でベトナムからイタリアに移動できるの?という点。超高速ヨットなのか、あのクラスのヨットを二隻持っていると納得しよう。
で、最後の最後のシーン。「爆弾は爆発しなかった」というたぶんニールのナレーションに重なるマックスとキャサリンで終わる不思議。先ほどのセイターの理屈で言えば、この時間の流れで実はキャサリンが二人存在していることになる。逆行したキャサリンと、何も知らずに主人公から贋作の鑑定依頼を受けるキャサリンだ。

ベトナムのヨットから普通に生活していて名もなき主役、TENETと呼ばれることになる男と会う前のキャノン通りのはずだが、実はこれは以前出てきたキャノン通りとは違う。もしかすると、プリヤがキャサリンを殺そうとする動機は存在してはならないキャサリンが二人存在するからなのかもしれない。そして、もしそうなら、この時点では本来の時間流れのキャサリンは、マックスを自分自分自身に「奪われた」ことになる。この後のヨットの「一緒にローマに行こう」と約束していたのにいないマックスは実は、すでにTENET一派にかくまわれていた可能性が存在する。ということは、この直後から主人公とニールは親子以上の関係を築くのだろう。

ニールのロバート・パティソンが34歳、主人校ジョン・デヴィッド・ワシントンが36歳なので、登場人物としてもそれくらいの年齢設定だとすれば、マックスが10歳くらいなので、(34−10)/2+10=22歳なので、10年程度主人公とマックスとキャサリンは一緒に暮らし、そこからマックスはひたすら陰に隠れながら時間逆行し続けたことになる。

ああ、ここまで設定が細かくされているのだ改めて想ったのは、一回目ではわからなかったヨットでの日焼け止めこぼし。あれば、女の力でもセイターを滑って落とすために仕掛けていたのだと。時間かせぎと滑りやすさの両面でやっていたのだとやっとわかった。そこまで憎かったのか!

私のヒアリングが今一で、antigonistが「挟撃」作戦のことか?「記録」がposterityと言ってたように聞こえた。この辺はもう一度見る時に確認したい。

思いっきりネタバレなエントリーだが、自分の頭の整理のためにも書かずにはいられなかった。