HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

「不道徳な経済学」:完璧なリバタリアン

著者のウォルター・ブロック教授、訳者の橘玲さんは完璧なリバタリアンなのだとよく伝わる。ここまで徹底した思考の存在すら知らないまま半世紀も生きてきてしまったことが恥ずかしい。

本書の著者、ブロック教授は、転売屋、ヤクの売人、売春婦、ダフ屋、偽札屋などを「ヒーロー」と呼ぶ。一般的な道徳からは排除されてしまいがちな、彼らこそが世界の有るべき姿を現し、市場経済を回しているのだと。国家や地方自治体が「法律」や、「行政」により人々の生活への不用意な制限、介入から、一般の人々を解放する「ヒーロー」なのだと。センチメンタルな道徳意識ががいかに世界のあり方を捻じ曲げているかを見事な論理で明らかにしてくれている。人々が自分の自由意思に基づいて生きていく限り、「ヒーロー」達は認められるべきであると。

リバタリアニズム(英: libertarianism)は、個人的な自由、経済的な自由の双方を重視する、自由主義上の政治思想・政治哲学の立場[1][2]。新自由主義と似るが、これが経済的な自由を重視するのに対し、リバタリアニズムは個人的な自由も重んじる[3]。他者の身体や正当に所有された物質的、私的財産を侵害しない限り、各人が望む全ての行動は基本的に自由であると主張する[4]。

リバタリアニズム - Wikipedia

もちろん、リバタリアンの前提として暴力的な力の徹底的排除、所有権の尊重が前提となる。自由意思の発露としての転売から偽札屋、はては児童雇用者まで、合理性の結果として説明されている。例えば、「ヤクの売人」は法的に制限されているから麻薬等の価格を吊り上げざるを得なくなる。そして、「顧客」たちは法外な値段のために通常ではない仕事に手を染めざるを得なくなるのだと。麻薬を犯罪として告発する行政側があるからこそ、価格をゆがめ、人々のあるべき生活をゆがめているのだと。実際、北米などで大麻の合法化などが行われ、適正な価格での流通が行われ、立派なビジネスとなっている。

最低賃金に関する考察が秀逸であった。これは間違いなく失業を増加させるための制限であり、結果として若年労働者を排除しすでに組合に所属する熟練労働者の雇用を守るための規制なのだと。考えてみれば、最低賃金が高く設定されればされるほど訓練に必要な未熟練労働者を雇用者は雇いたくなくなる。結果として、若年の失業率を高め、最終的には実際の雇用可能な賃金をも低下させてしまうと。

私のような論理を徹底できない者がこれ以上書いても伝わらない。ぜひ本書はもっと広く読まれるべき教科書だ。