最近の老人の事件などに触れるにあたって学習能力の喪失だという気がしてならない。自分自身の老化すら認識できないために起こった諸事件であるように思われるので、学習なんてさらに不可能なのだろう。あるいは、自分の新たな状況への対応が学習できなくなったことの悲劇だと言うこともできる。
残念ながら養老孟司氏の「バカの壁」は読みそこねたままになっている。
タイトルからだけの理解で言えば、お「バカ」な人は学習能力が低いため一定以上の複雑なことがらを理解できず、自分の主観がすべてだと思いこむ人なのだという意味だと私は受け止めている。老人も一緒だ。世界がすごいスピードで変わっていることを理解できず、理解しようともせず、劣化しつづける自分と自分の過去だけで生きていこうとする。学習能力がないのだから、議論しても自分の意見を変えることは全くない。距離を置くしかないということになる。いつか自分もそうなることを考えると、生きていくのって難しいなと実感する。
逆に、学習能力が高すぎるがために起こる悲劇もある。テッド・チャンの「理解」はその高度に進化して魔術と区別がつかなくなったレベルでの悲劇を表現している。
- 作者: テッド・チャン,公手成幸,浅倉久志,古沢嘉通,嶋田洋一
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/09/30
- メディア: 文庫
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知能が極限まで高くなるとどうなるのであろうか? これを描いているのが『あなたの人生の物語』というSF小説集に収められている「理解」と題された短編である。この本全体を通して、科学的な描写の正しさは心地よいが、知能が極端に高い存在にとって世界がどう見えるのかを見事に描く。私がこれまでに読んだ本や映画のなかで、最も的確な描写である。
まあ、凡人に生まれてよかったなと思うほかない。