HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

閻学通論文

月刊誌「選択」で正月に閻学通氏の論文(以下、論文)の重要性についての記事を読んだ。これは原著に当たらねばと張り切って「フォーリン・アフェアーズ」を注文した。

なんとなんと、「フォーリン・アフェアーズ」のサイトに全文載っていることを発見した!

www.foreignaffairsj.co.jp

いまや問うべきは、米中二極体制の時代がやってくるのかどうかではなく、それがどのようなものになるかだ。米中二極体制によって、終末戦争の瀬戸際の世界が出現するわけではない。自由貿易を前提とするリベラルな経済秩序を重視しているだけに、今後の中国の外交政策は、積極性や攻撃性ではなく、慎重さを重視するようになるだろう。ほとんどの諸国は、問題ごとに米中どちらの超大国の側につくかを決める2トラックの外交政策を展開するようになり、これまでの多国間主義は終わりを迎える。欧米におけるナショナリスティクなポピュリズムと中国の国家主権へのこだわりが重なり合う環境では、リベラルな国際主義のシンボルだった政治的統合やグローバル統治の余地はほとんどなくなっていくはずだ。・・・

「論文」では冒頭にペンス大統領の中国の驚異を強調する演説から始まる。しかし、「選択」誌が指摘するように、「論文」ではペンス大統領発言の内容について否定していない。これは大きなポイントだ。そして、「米中対立は望んでいない」と論は進む。むしろ、「中国、ドイツ、日本などの輸出主導型経済国が、アメリカがいかなるコースをとろうとも、自由貿易協定、世界貿易機構(WTO)でのメンバーシップを基盤とするリベラルなグローバル貿易秩序の存続に努める」と。中国が米国に対抗してでも自由貿易を守る立場に立つと発言するとリーマンショック前、いや、1年前の誰が予想しただろうか?

www.nikkei.com

少し探してみると、1年前のインタビュー記事が見つかった。このインタビューと「論文」を比較すると、米中間の競争についてのトーンが違うことに気づく。

www.nikkei.com

インタビューではまだかなり強気の発言をしている。

「中米間の経済競争が激しくなるのは理にかなっている。1980年代末から90年代初めの日米関係を考えてみてほしい。両国間の経済摩擦は激しくなる一方だった。日本が米国との差を急速に縮めたからだ。中国もかつての日本と同じように米国との差を縮めており、再び差が開かない限り摩擦は緩和できない」

「貿易戦争という言葉はあっても、人が死ぬわけではない。それは競争の結果にすぎず、たいして危険ではない。むしろ貿易戦争を避けようとして一方的に譲歩すれば、米国にしてやられる。日本は85年のプラザ合意で譲歩した結果、経済がひどい状況になったと指摘する学者もいる」

対して、「論文」の結論はかなり慎重だと言える。むしろ、米中の「経済戦争」をこれ以上激化させないための発言だともとれる。

冷戦期同様に、互いに核を保有しているだけに、代理戦争が二つの超大国間の直接対決へ簡単にエスカレートしていくことはないだろう。より重要なのは、中国の指導者たちが現状から恩恵を引き出せることを明確に理解していることだ。その経済パワー、ソフトパワーを拡大するには最適の環境にある以上、北京は、中国の中核利益が維持される限り、現状を揺るがして、この恩恵を近い将来に危険にさらすようなことはしないはずだ。

当然、中国の指導者は、すでに神経質になっている欧米諸国政府を警戒させないように努力するだろうし、今後の中国はこの目的に即した外交政策をとるだろう。緊張の高まりや激しい競争が繰り返されるかもしれないが、グローバル世界がカオスに巻き込まれるような事態へエスカレートすることはないだろう

私のような素人に中国で国際政治の大家と言われるような海千山千の学者の指摘を明解にすることはかのうよしもないが、私も個人的にはこれ以上米中の対立が深まっても、日本の国益はひとつもないと考える一人ではある。