一夜明けて、急騰した円はさがり、日経平均は値を戻した。
id:finalventさんは見事にトランプの勝因を分析されていた。
驚くのだが10月19日の時点で、トランプ陣営は広告費全1億2900万ドルのうちネットに当てたのは5700万ドル、対してクリントン陣営は1000万ドルほどだった。つまり、実質トランプ陣営は6倍のSNS支援を行い、これによって、クリントン陣営の支援組織力に対抗していたと見ることができる。そして10月に入るとトランプ陣営は残り資金の70%を接戦州のTV広告に投入した。この額だけ見れば、クリントン陣営に並んだ。
トランプ候補はなぜ大統領選に勝ったのか: 極東ブログ
米国全体での得票数ではヒラリー・クリントン氏が上回っているにもかかわらず、トランプ氏が選挙には勝利した。これは本当にトランプ氏のマーケティングの勝利。マーケティングとは、アンケート調査だけでもなく、インタビュー調査だけでもなく、市場の統計だけでもなく、ありとあらゆる手段を使って売れる仕組みを作ることだ。売れる仕組みを作るためなら、新商品も開発するし、組織の体制も変える、必要があれば頭のすげ替えさえも厭わないだろう。トランプ氏は、政治家である前にビジネスマンなのだ。大統領選挙で勝つという目標のためのマーケティングを怠らなかったのだろう。
そこで思い出すのは昭和60年の中曽根首相(当時)と大前マッキンゼー社長(当時)。
1983年(昭和58年)の総選挙では、ロッキード事件で逮捕された田中角栄元首相が一審で有罪判決を受けたことから政治倫理が大きな争点となり、自民党は単独過半数を割る敗北を喫した。
元祖「平成維新」(2)-中曽根首相へのアドバイス | プレジデントオンライン | PRESIDENT Online
(中略)
そこで中曽根さんと会食した際に、衆参ダブル選挙のアイデアを授けたのである。当時、選挙の投票率は下がり続けていたが、投票に来ない有権者の分析をすると、圧倒的に自民党支持が多かった。
(中略)
このときの自民党の選挙戦略や区割りや候補者調整にも知恵を貸した。当時は小選挙区制ではなく、中選挙区制だから“死に票”が多かった。たとえば1つの選挙区に自民党から2人が立候補して、自民党の候補1人と社会党の候補が当選したとすると、3位で惜敗したもう1人の自民党の候補者の得票はまったくの無駄になる。そこで選挙区を調整して、2人以上の当選が確実な選挙区以外は候補を一本化し、泣こうが喚こうが1人しか公認しないことを徹底した。
(中略)
選挙区ごとに綿密なマーケティング分析をして、自民党が稼いだ得票が最大の議席数につながるように区割り調整をした。結果、86年の総選挙の投票率は70%を軽くオーバーして、306議席を獲得した自民党の圧勝に終わった。
この時の勝ち方があまりに見事だったので、大前研一とマッキンゼーの名声はいやが上にもあがった。これまた「大前研一」という商品のマーケティングとしては最高の戦略だった。
今回のトランプ氏の「大前研一」が誰であったかはわからない。しかし、上がりすぎた名声のために大前研一氏は「平成維新」を連呼するようになり、いまからすれば逆に道州制の導入や、省庁の再編が遅れた。参謀であるべき人物は、あくまで参謀であるべきだったのだ。当時の大前研一の「自分がやらなければ誰がやるんだ」という気持ちは痛いほどわかるが。
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マーケティングで大統領選挙を制してしまったがゆえに、同様にしてトランプ氏の今後が心配だ。
とはいえ、このような記事も出ている。
トランプ氏は同時に、高齢者福祉は不可侵であり、公共事業の大盤振る舞い、一部の投資所得への増税を公約しています。
「トランプ大統領」誕生 - 山猫日記
確かに、勝利演説においてもトランプ氏は「我々は、ぼろぼろになってしまった病院や、学校、道路、橋などを作り直すのだ。このことこそが我々の雇用を生む」と話していたと記憶する。
スラム街を再建し、ハイウェー、学校、病院を再建し、私たちのインフラを再建していきます。そして、なによりもまず、多くの人たちを、インフラ再建の仕事に就かせていきたいと思います。退役軍人たちに敬意をはらって、良い待遇をしたい。多くの人たち、18カ月の選挙戦を通じて、このような退役軍人の素晴らしい人たちと知り合いました。国家の成長ためのプログラムを実施し、才能をもった人たちの力を生かしていきたい。私たちには、素晴らしい経済の計画があります。経済成長を2倍にして、世界で最強の経済をつくっていきたい。と同時に、すべての国と、仲良く付き合っていきたいと思います。素晴らしい国と国との関係を、他国と築いていきたいと思います。大きな夢、大きな挑戦があります。私たちの将来、決して不可能なものはありません。アメリカは常にベストを求めます。
【米大統領選】「私はこの国を愛しています」トランプ氏が勝利演説(全文)
「山猫日誌」のエントリーの後段では、更にトランプ氏の税制についても触れている。
法人税を15%へと大胆に引き下げるインパクトは絶大でしょう。米国企業が海外に滞留させている資金を一回限り10%の法人税で還流させる政策は米国経済を空前の好景気へと導くのではないでしょうか。忘れてはならないのは、米国経済に厳しい面はあるものの21世紀のリーディング産業におけるリーディングカンパニーはほとんどが米国系企業であるということです。これらは、米国民からすれば極めて合理的な政策です。
「トランプ大統領」誕生 - 山猫日記