HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

1990年のパナマ文書

パナマ文書は大変大きな問題になっていくと予想される。

パナマ文書(Panama Papers)とは、パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」によって作成された1000万件を超える租税回避に関する機密文書で、合計2.6テラバイトに及ぶ史上最大のデジタルリークのことです。

この文書には、世界的な大企業や政治家、富裕層の人々の名前が記載されており、公的組織も存在し、世界中で大きな波紋を呼んでいます。

世界が阿鼻叫喚。「パナマ文書の震源地」にいた日本人が語る現場の様子 - まぐまぐニュース!

こうなることを1990年に予想した人物がいる。デイヴィッド・ブリンだ。

ガイア―母なる地球〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

ガイア―母なる地球〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

ガイア―母なる地球〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

ガイア―母なる地球〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

ブリンによれば、2010年代に情報を公開しない金融資本、スイスの銀行家たちと、その他の世界との間で大戦争が起こったと、2038年の近未来を扱った「ガイア」に書いている。長いがせっかくなので。

<ヘルヴェテイア戦争><秘密解放戦争><最後の希望>など、現在さまざまな呼び名で知られるこの戦いは、おそらく武器を用いての戦いとしては、史上もっとも苛烈で激しいものだっただろう。この戦いに参戦するにあたり、連合軍各国にはそれぞれの思惑があった。
産業の発達した北半球諸国が参戦したのは、おもに麻薬商人や脱税者の不法資金洗浄ロンダリング)ルートをつぶすためだった。20世紀の大負債にあえぐアメリカやヨーロッパの市民たちは、そういう犯罪者にせめて正当な納税をもとめるいっぽうで、その闇資金の温床となるスイスの銀行家を憎んだのである。
スイス銀行秘密性に対する憎悪は、発展途上国においていっそう激しかった。これらの諸国の莫大な負債は、”資本流出”によっていっそう悪化していた。国内の権力者たちが何世代もかけ、おびただしい現金を海外の秘匿先に持ちだしていたからである。正当な利益であれ、国からかすめとった財産であれ、この資本の流失は、ただでさえ脆弱な途上国経済を痛めつけ、外国からの負債の返済をいっそう困難にした。ベネズエラ、ザイール、フィリピンなどは、旧支配層が持ちだした何十億ドルもの資産を回収しようと試みたが、ついに果たせなかった。やがて復興した各国民主政府の連合体は、元独裁者らの糾弾をやめ、怒りの矛先をスイス銀行そのものにむけることになる。
とはえいあ、北の納税者の怒りと南の資金不足だけでは、世界をしてあの激烈で非現実的な戦いに向かわせる原動力たりえなかっただろう。世界をそこまで踏みきらせるには、さらにふたつの要素が必要だった。すなわち、モラルの変化と、芽生えつつあった情報ネットワークである。
そのことはまだ大規模が軍備が実在しており軍備縮小を推進する唯一の方法は、相互に査察団を送り込んで確認しあうことしかなかった。やがて、兵器削減の合意がなるたびに立ちいり調査をする国際査察団は、神聖岡すべからざる存在となっていった。それとともに、”秘密”や”秘匿”といったことばも、現在使われているような忌まわしい意味合いを持つにいたった。
しだいに数の増え出した”ブラックジャック”ーーー21世紀生まれの子らにしてみれば、もはや秘密という概念そのものが意図的な不誠実を意味するものでしかない。「なにを隠してるんだ?」というフレーズは、いまでこそ形ばかりの毒のない言い回しである。しかし、当時にあっては、それは怒れる革命的な魂の発露だったのだ。
まもなくその怒りは、当時最後まで残っていた、秘密を是とし、頑固に秘密主義を貫く唯一の権力に向けられることになった。プラザヴィル連合の加盟国が一堂に会し、宣戦布告を決定するころには、妥協のムードはいっさいなくなっていた。そのところになってようやく、ベルン、ナッサウ、ファドゥーツからの懐柔策が提示されたものの、譲歩の幅はあまりに小さく、また遅きに失した。かくて新しい戦いのおたけびが世界じゅうであがる・・・「帳簿を公開しろ、ひとつ残らず。いますぐに!」
はたして連合軍は、あれだけの犠牲と恐怖が行く手に待ち受けていることを覚悟の上であの戦争に踏みきったのだろうか?
現在のありようを鑑みるなら、グラールスアルプス山脈の地下に眠る無数の犠牲者には気の毒ながら、われわれの唯一のあやまちは、もっと早くに先生を布告しなかったことにありそうだ。この点では、おおかたの意見も一致している。いずれにしても、戦争が二年目に突入するころには、だれの備忘録からも慈悲ということばはきえさっていた。世界の屋根に向けられる叫び声は、ローマ将軍カトーのセリフの現代版のみー”ヘルヴェティアは滅ぼさねばならぬ!”
そして、そのころにはもう、ベルヴェティアは滅びかけていたのである。
ーーーー『見えざる手』ダブルデイ・ブックス刊 第4.7版(2035年)より

ブリンは本書の中でWWWや、監視社会の到来、老人の政治的重要度の拡大などを予想している。

スイスでなく、パナマであったが、本当に戦争が起こりかねないほど大きな権力のあり方の問題となっていきそうに私にも想える。