「随筆 宮本武蔵」がなかなか読み終わらない。ただただ吉川英治の博覧強記なまでの宮本武蔵の研究と核心をついた洞察に感嘆するばかり。武蔵の孤独に関するこの一節もそう。
(母もいない、あたたかい交流がないまま早くに父も逝ったという)そういう家庭に育まれたせいと見るほかにないのはもう一つ、武蔵のあれほどの遺文中にも、父母のことについては、一字も記したものがない点である。十九句から成っている彼の座右銘「独行道」は、つぶさに見ると、まったく孤そのものである。孤のの寂寥をいかに楽しむか、哲学するか、道徳するか、芸術するか、ほとんど生命がけでかかっている孤行独歩の生活の鞭だと僕は見るのである。
吉川英治 随筆 宮本武蔵
その内の一章
どの道にも別を悲しまず
などは、いかに彼がそれへの纏綿な愚痴を抱いている煩悩人であるかがわかるではないか。
- 作者: 吉川英治
- 発売日: 2013/10/22
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死の直前に書かれたという「独行道」は、確かに孤独な人生を生き抜いた人にしかかけない壮絶さを感じる。
獨 行 道 宮本武藏
一、世々の道をそむく事なし
一、身にたのしみをたくます
一、よろつに依怙の心なし
一、身をあさく思世をふかく思ふ
一、一生の間よくしん思わす
一、我事におゐて後悔をせす
一、善惡に他をねたむ心なし
一、いつれの道にもわかれをかなします
一、自他共にうらみかこつ心なし
一、れんほの道思ひよるこゝろなし
一、物毎にすきこのむ事なし
一、私宅におゐてのそむ心なし
一、身ひとつに美食をこのます
一、末々代物なる古き道具を所持せす
一、わか身にいたり物いみする事なし
一、兵具は各別よの道具たしなます
一、道におゐては死をいとわす思ふ
一、老身に財寶所領もちゆる心なし
一、佛神は貴し佛神をたのます
一、身を捨ても名利は捨てす
一、常に兵法の道をはなれす正保弐年
宮本武蔵「独行道」
五月十二日 新免武藏
玄信〔花押〕
寺尾孫之丞殿
武蔵の直筆が残っている。
所蔵品データベース / 熊本県立美術館
直筆で数えると21章ある。また、吉川英治が「どの道にも別を悲しまず」と書いていあるのは、直筆だと「いつれの道にもわかれをかなします」となっている。直筆が発見されたのは、吉川英治の没後なのだろうか?
それはともかく、自分の道を求める姿勢のあまりの甘さを実感する。
しかし、この「独行道」を残した武蔵と、「バガボンド」のそれはあまりに違いすぎるのではないだろうか?