HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

黒騎士の台頭

邦題「ダークナイト ライジング」、原題「The Dark Night Rises」を見てきた。以下、ネタバレありの感想。




いうまでもなく、タイトルは前作「Dark Night」を引き継いでいる。「The Dark Night Rises」の「Dark Night」は「Dark Knight」と掛けている。「暗い夜が始まる」とも読めるし、「黒騎士の台頭」とも読める。

前作で、街を守るために偽りの罪を背負って姿を隠す黒騎士、ダークナイトバットマン=ウェイン。偽りの罪と自己犠牲による平和は、虚構にすぎなかった。バットマンの対極であるベインの台頭によってバランスを大きく崩れていく。

ノーラン監督は、本作の物語がそのまま「二都物語」に重なると言っている。

本作の脚本を手がけたジョナサン・ノーランクリストファー・ノーランは、1859年に出版されたチャールズ・ディケンズの長編小説『二都物語』が、脚本の構想元になっている事をコメントした。

ダークナイト ライジング - Wikipedia

二都物語のシナプスを読んでびっくりした。

一人の女性を愛する、よく似た二人の男。罪を背負う男。牢獄。革命。そして・・・。いやあ、すごい。バットマンとベインは、相似形でありながら、二つの極である、いや、極でなければならない。本作と二都物語は、物語の構造としてあまりに似ている。

だが、それだけではない。ノーラン監督は、二都物語が描き出そうとした世の真実を、更に濃縮して本作に盛り込もうとしている。

 さらにノーラン監督は、「『二都物語』は僕にとって、フランス革命という時代に、れっきとした文明が小さな紙切れのように折りたたまれていってしまう様を痛切に描写したものだ。物事がどんどん悪い方向に進んでいく様子は、想像をはるかに超える」とコメントしており、どうやらそこに『ダークナイト ライジング』で描かれるゴッサム・シティの悲劇を重ね合わせたようだ。

『ダークナイト ライジング』はディケンズの「二都物語」にインスピレーション!クリストファー・ノーラン監督が告白! - シネマトゥデイ

本作における牢獄をめぐる描写も二都物語と重なる。フランス革命はいうまでもなく牢獄から始まった。そして、絶対王政時代の投「勅命逮捕状」は、本作の潜在的な犯罪者、組織犯罪者を任意で投獄できる「デント法」だ。「疑わしきは罰する」牢獄は偽りの平和を維持するために必要だった。

ここを国事犯の収容所としたのはルイ13世の宰相リシュリューであり、これ以降バスティーユには国王が自由に発行できる「勅命逮捕状」によって捕らえられた者(主に謀反を起こそうとした高官たち)が収容されるようになった。

(中略)

フランス革命が勃発したときに民衆の暴動により襲撃されたが、このときは武器を得る目的で襲撃したとも、レヴェイヨン事件の報復だったとも言われている。

バスティーユ牢獄 - Wikipedia

ベインは本作で「西欧文明がこれでおわる」とこともなげに言い切っている。「街を人々の手に!」と叫びながら、不回避の破滅へと加速させていく。確かに、フランス革命により多くのものごとが失われ、文明人であった人々が狂気へと向う様と重なる。そして、いまの民主主義の国家の在り方自体も強制と狂気と犯罪の狭間に立たされていることを見事に描いているといえる。バットマンの1作目に出てきたクレイトンが裁判官を務める人民裁判フランス革命のそれと重なる。

この狂気を抑え、個人が自分の自覚によって力を行使する平和を実現させるのは、どうしたらよいのか?自己を犠牲にするヒーローしかないのか?いや、それは前作によって否定された。既存の法律や、警察の在り方では、真実の平和は築けないのか?それこそが、バットマンのテーマだ。本作は残念ながら、この問いに対して明確な答えを与えてはくれていない。

民主主義ではヒーローは得てして排除される。黒騎士、ダークヒーローは現代には似つかわしくない、というのが唯一の非常に皮肉な結論であろうか。

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