この前ブログに書いたけど、村上春樹は宗教とか権力とか危ないよという問題意識で書き始めたはずなのに全く反対の神話を語ってしまったと。その後始末にBOOK3を時間を置いて書いたのに始末がついていない。
執筆の動機として、ジョージ・オーウェルの近未来小説『1984年』を土台に、近過去の小説を書きたいと以前から思っていたが、それとは別に、地下鉄サリン事件について『アンダーグラウンド』と『約束された場所で』に書いた後も、裁判の傍聴を続け、事件で一番多い8人を殺し逃亡した、林泰男死刑囚に強い関心を持ち、「ごく普通の、犯罪者性人格でもない人間がいろんな流れのままに重い罪を犯し、気がついたときにはいつ命が奪われるかわからない死刑囚になっていた——そんな月の裏側に一人残されていたような恐怖」の意味を自分のことのように想像しながら何年も考え続けたことが出発点となった。そして「原理主義やある種の神話性に対抗する物語」を立ち上げていくことが作家の役割で「大事なのは売れる数じゃない。届き方だと思う」と述べた。
1Q84 - Wikipedia
私の読み方はいささか強引かもしれないが、BOOK1のシンフォニエッタ=ELP/Knife Edgeから始まってBOOK2の終わりで青豆がピストルを加えるくだりまでを、神話性を持った王位継承の物語と読み解くことができる。
BOOK2を読み終えた時点で、村上春樹の当初の意図では完結していると思っていた。
(中略)
天吾はその名の示すとおり、救世主だ。父以外の男が母の乳を吸うというショッキングなシーンの受胎告知により産まれた。本当の父が誰だか最後まで知らされない。産まれたときから、次代の王として運命づけられている。貴種流離譚の常として自分一人の力で困難な少年時代を生き延びなければならなかった。先代の王=リーダーの娘を奪い、青豆というメッセンジャーの力で先代の王を殺害するという試練を経て、王位を確定させた。
青豆は天吾から見た永遠の処女性が付与された宿命の妃だ。新しい王の天吾ですら青豆と永遠に交わることができない。贖罪のいけにえの羊として儀式のあとに、王位の継承に捧げられなくてはならない。青豆=「青いままの豆」とは、時代を産まない処女のままの運命を神に捧げられることを意味する。
「1Q84 BOOK2 後編」 - HPO:機密日誌
申し訳程度だが、文中にちゃんと天吾はプログレッシブロックが好きだと書いてある。プログレ好きが、シンフォニエッタを聴けばかならずELPのKnife Edgeを思い出さない人はいない。そして、その歌詞はBOOK1、2の展開を想起させる、「劇場の王」、「あなたはあなたが誰か理解できるか」、「マシーンが溶鉱炉へ」などといったキーワードに満ちている。村上春樹がELPを知らなかったわけはない。
ちなみに、この囲みに引用した感想は、BOOK2を読み終えた時点で書いた。既にBOOK3を読了した。しかし、ここまででBOOK2末での予想を裏切る物語の展開は一切なかった。筆も冗長なだけで全く気持ちが載っていない。BOOK2の半ばまでの緊張感をもった展開を最後まで続けられたら、あるいは「ある種の神話性に対抗する物語」となったかもしれないが、全く失敗している。
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何十万部売れたか知らないが、面白くないものは面白くない。せめて、BOOK2で止めておけば良かったのにとつくづく思う。