映画の「ノルウェイの森」がひとつも面白くなかったのは含羞がなかったから。
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小説版は、「僕」と自分を語る「ワタナベ」だけが陰をもたなかった。自殺してしまったキズキはもちろん、直子も、永沢さんも、どこかに陰があった。それは、肉親の死であったり、自分の中の欠けてしまっていると自覚している部分であったりする。ワタナベが永沢さんと遊びに行った時ですら、とまどいがあった。
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もういちいち誰がなにをやったか、監督の演出意図はとか触れないが、この映画はあまりにフラットだった。登場人物達は、自分がなにをすべきなのか、どうしたいのかについて、あまりに迷いがない。フラットな世界では、緑のやさしさも、直子の絶望も伝わってこない。
含羞、はじらいを含むとは、自分がいまやっていることに100%確信しないという態度をいうのではないだろうか?いま、ここでやっていること、相手に対する禮、自分のうちなる世界のあり方、それらにはじらいを持つことが人の陰影を与えるのだと思う。人を美しくするのだと私は信じる。
そもそも、冒頭の井戸のシーンがないことが不満だった。「ノルウェイの森」は、深い深い井戸のある森と、寮の屋上から放たれる蛍で私にとっては十分なのに、いずれも映画では描かれていなかった。
いやいや、じゃあお前はどうなのだと言われそうだなと書いてから気づいた。やれやれ。