「続明暗」を「明暗」に続いて読んだ。
- 作者: 夏目漱石
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/01
- メディア: 文庫
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- 作者: 水村美苗
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/06/10
- メディア: 文庫
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そもそも「明暗」を読み始めたきっかけはid:finalventさんのエントリーを拝見したからだった。
「お秀の役割は既に終わっていて、『続』での出番は冗長にすぎない」という意見を含めて、finalventさんのエントリーの通りだなと思った。
水村美苗のあとがきが気になっている。
牛になることはどうしても必要です。吾々はとかく馬になりたがるが、牛には中々なり切れないです。・・・・・牛は超然として押して行くのです。何を押すのか聞くなら申します。人間を押すのです。文士を押すのではありません。
これは禅を意識して書かれたものだと直感した。
全文がないか調べてみた。
この手紙は芥川龍之介に宛てたもの。私はこの二通の書簡に夏目漱石の到達点を感じる。
尋仙未向碧山行。住在人間足道情。明暗雙雙三萬字。撫摩石印自由成。
(句讀をつけたのは字くばりが不味かつたからです。明暗雙々といふのは禪家で用ひる熟字であります。三萬字は好加減です。原稿紙で勘定すると新聞一回分が一千八百字位あります。だから百回に見積ると十八萬字になります。然し明暗雙々十八萬字では字が多くつて平仄が差支へるので致し方がありません故三萬字で御免を蒙りました。結句に自由成とあるは少々手前味噌めきますが、是も自然の成行上已を得ないと思つて下さい)
「明暗雙雙」についてはこのエントリーに詳しい。
《尋仙未向碧山行 (仙を尋ぬるに 未だ碧山に向かひて行かず)
明暗双双 - 四字熟語の研究 Four-Character Idioms
住在人間足道情 (人間に住在するも 道情足る)
明暗雙雙三萬字 (明暗雙雙 三萬字)
撫摩石印自由成 (石印を撫摩しつつ 自由成る) 》
いわば、「明暗」は公案の連続なのだ。
「思考制御」と書いたが、お延と津田は到達点の表現のために創造されたのではないだろうか。思いつくままにあげれば、「それから」、「門」、「こころ」と略奪という自分本位の恋愛に生きた男女の帰着点を描いた。津田は言わば、奪われた側であり、その帰着点が自分自身の問題であることが自覚できない人物である。もし、漱石が最後まで明暗を書ければ、漱石の到達した地点まで津田も到達することができたかもしれないと私は思う。漱石は「自由成る」ところまで描きたかったのだと。
この到達点を自分なりに目指したがために、水村美苗はお延にこの結末を迎えさせたのだと信じる。漱石であれば、津田であったところが、水村は女性として「続」を書いた。水村にはお延は書けても、津田の至る姿は書けなかった。「人を押す」姿を、女性として探り当てたと私は思う。
よい小説体験であった。