HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

安冨歩先生がドラッカーの『マネジメント』を読んだら

私はごく穏やかな人格だと自認しているのだが、安冨先生といい、タレブ氏といい、私の大好きな方々はどうしてここまで過激に徹底的に既存の学問体系を批判するのだろう。

経済学の船出 ―創発の海へ

経済学の船出 ―創発の海へ

ドラッカーを準用しながら、現代経済学のドグマがめっためたに切り刻まれている。これだけ前提を否定されてしまえば、もう再構築しかないだろうと私には思える。しかも、著作を重ねながら確実に現実に効用のある方向の批判と再構築にむかっていらっしゃるのが、安冨先生のすばらしいところ。

限界効用価値説は、実は価値説ではなく、価値論抜きの交換比率の説明原理である。(略)その後、このような問題を「価値論」とは言わなくなり、「価格理論』と呼ぶようになった。今では、「価値」という言葉を使うだけで、「マル経」のレッテルを貼られる始末である。実際、価値という単語を含むタイトルの経済書を出版しているのは、伝統的なマルクス経済学者(まだ居るのである)だけである。

それゆえ現在の経済学には、まともな価値論がない。

しかし、いまでもなく、誠実な経済学者であれば、「経世済民」、人びとの幸せを実現する学問であろうとするだろうし、人びとを幸せに導くためには、そのための道である「価値」を明確にしなくてはならない。安冨先生を満足させる経済学者は実存しないらしい。

では、誰に答えを求めるのか?もちろんドラッカーだ。こんなにすごいドラッカー論は、一応経営者としてそこそこドラッカー本を読んできたつもりだがはじめてだ。

ちょっとだけ、前提として暗黙知の問題に触れざるを得ない。これも結論だけ書けば、価値とは「創発」だと断言していらっしゃる。ドラッカーイノベーション、マネジメントの本質は「既存の知識」から「新しい知識」を生み出すことであり、そこにはからなず「暗黙知」の次元=創発における「tacit knowing」=「知る」という行動があるのだと。これは、私には仏教でいう「因果」が実は「因縁果」だという事実に呼応するように思える。

誰がドラッカーの経営論の要点をこの3つに集約できると思うだろうか?

  1. 自分の行為のすべてを注意深く観察せよ、
  2. 人の伝えようとしていることを聞け、
  3. 自分のあり方を改めよ。

なぜこうなるのか?これがほんとうに現代社会を全体主義虚無主義から救うほど大切なのかは、本書を買って読んでほしい。

ここまで来て、なぜ私が大好きな方々が過激なのかが分かる。お二人ともひとびとに幸せであることに誠実なのだ。ドラッカーが深く失望するほど、世の中は人を不幸せにする仕組みに満ちている。

ドラッカー名著集12 傍観者の時代 (ドラッカー名著集 12)

ドラッカー名著集12 傍観者の時代 (ドラッカー名著集 12)