決算基準日だからといって、日々の株式の値動きに心とらわれていはならない。より全体的な株式市場の流れは確かに景気の変動と相関関係にあるのは事実だろう。そして、長い目で見れば景気の変動の人口動態は関連があるといってもよいのではないだろうか?
以前から株式相場の変動を、個体群生態学の手法を使って予測できないかと考えていた。生物のエネルギーの流れと、市場経済における貨幣の流れは同じ原理−−−フラクタルであり、べき乗則−−−に従うのではないだろうか。
先日は、個体群生態学で使われるロジスティック式を使い世界と日本の人口をフィットさせるこころみを行った。統計学的厳密さをもとめるべくもなく、それだけの技術ももう私にはないがある程度妥当性があるのではないかと思われた。
そこで、手近にあった日経平均の時系列データとロジスティック式、あるいは、捕食動物を考慮したロトカ=ヴォルテラ式でフィットさせることはできないかやってみた。
時系列データのソースはこちらから。
例によってエクセルの表にまとめた。
ロジスティック式でフィットさせようとしたが、S字カーブまでは描けても、下落局面がフィットさせられない。
次に、ロトカ=ヴォルテラ式でのフィットを試みた。市場の中に、「捕食動物」ともいえる下落を導く株銘が初期条件で5%ほどあると仮定した。
本来なら、経済物理学などで研究されているように、株式市場のカオス的な挙動まで再現してみたいのだが、私にはそれだけの数学的な力がない。1年程度の値動きの全体的な傾向としては、ある程度フィットできたように見える。このままのパラメーターで、今後1年間の日経平均予測をしてみた。
現在が下落傾向の終わりの部分にあるように思われる。この傾向がこのまま続けば、1年後には1万3千円台まで復活する可能性があるといってよい。*2
株式データについては、銘柄を意図的に選択されている日経平均よりも、東証市場全体のインデックスであるTOPIXを使うべきだとの、id:健冒症さんからの御助言をいただいた。以下のグラフはTOPIXのデータを使ってどうようにロトカ=ヴォルテラ方程式でフィットする試みの結果だ。
これだけでは日経平均のときと傾向が変わらない。
これまでの成果はもしかすると、期間が短すぎたのかもしれなと考え、過去10年のTOPIXの時系列データから月間の終値をとりだし、同様のフィットの試みを行った。パラメーターの微調整はしていないが、10年単位で見ると株式市場の変動のパターンとロトカ=ヴォルテラ方程式の変動の傾向が似ているとは言える。
上の図は、最初の1年でフィットさせるようにパラメーターを調整した。下の図は10年の期間全体ででフィットさせることを意識してパラメーター調整してみた。
以上から、あまりに根拠の薄い議論であるとのそしりを排除することはできないが、株式銘柄のうちに押し下げる捕食銘柄が存在し、全体として捕食=被食関係、あるいはトレードオフのある競争関係にある銘柄群が存在する可能性を示唆することはできるかもしれない。
ちなみに、TOPIXのデータを平成23年まで予測を延ばしてみた。東証のときに選択したパラメーターとは違い、どうも株式市場が復活しないという傾向をしめしている。より詳細なパラメーターとTOPIXインデックスとの検証が今後必要であることは論をまたない。
id:健冒症さん、ありがとうございました。
■経済学とべき乗則についての論文があった
経済学的な現象とべき乗則、ロトカ=ヴォルテラ方程式の関係を示唆する内容であるようだ。IDがなく内容を読めないのが非常に残念だ。
Abstract
Stable power laws in variable economies; Lotka-Volterra implies Pareto-Zipf
In recent years we have found that logistic systems of the Generalized Lotka-Volterra type (GLV) describing statistical systems of auto-catalytic elements posses power law distributions of the Pareto-Zipf type. In particular, when applied to economic systems, GLV leads to power laws in the relative individual wealth distribution and in market returns. These power laws and their exponent $\alpha $ are invariant to arbitrary variations in the total wealth of the system and to other endogenously and exogenously induced variations.
■生物学と経済学
もともとの問題意識はここにあった。
生物学は経済学の範たりうるのであろうか。私はそれに対して否定的である。
生物学は経済学のモデルになるか?---安冨歩 : アゴラ - ライブドアブログ
思いつきから始めて時系列で書いてきたが、もうすこし整理するために書きなおすことにした。
■追記
このシミュレーションと無理やりに関連付けてはいけないのだけど。
レバレッジにはサイクル変動があって、今が最悪ではないのに、ヘッジファンドのカネが枯渇したなら国家が肩代わりすることでうまく行く可能性はあるだろう
やっぱり、ガイトナー案はアンクルサムのヘッジファンドだね: 極東ブログ
「レバレッジのサイクル変動」ってあると思う。それは、ちょうど捕食動物の数の変動かもしれない。誰もが期待しなくなければ梃の原理の乗数は限りなく小さくなっていく。そこでおこった小さな被食動物の変動が、思いもがけない成長をとげ捕食動物の天国を一瞬演出する。つまりは、梃をかうと思いっきり美味しい状態がありうる。しかし、捕食動物が増えすぎるとまたレバレッジは加速度的に縮小して、どこかでティッピングポイントを超えて、失望の中の失望に陥って被食動物も捕食動物も絶滅に近づいてしまうというような変動...もちょっとファイナンスの言葉でしゃべるべきなのだろうけど、「生物学に学ぶ経済学」の方が「経済学に学ぶ生物学」より確からしさがあるような気がするのは私だけだろうか。