HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

[書評]「跡取り娘の経営学」

女性のことで言うのも変な表現だが、蒙を開かれた気持ちだ。

跡取り娘の経営学 (NB Online book)

跡取り娘の経営学 (NB Online book)

これまで家業を継ぐということは苦難に満ちていて、辛抱辛抱の連続であると信じていた。それは、徳川家康の「重き荷物を背負いて」という表現がまさにあてはまる。家康自身が跡取りでなければと何度も思ったに違いない。

本書において描かれているのは、苦労はあっても自分の「好き」という気持ちを大切に経営に生かしている経営者の姿だ。著者である白川桃子さんは「跡取り娘」を追う気持ちでどの経営者を描くかを選択されたのだろうが、そこに描かれている姿には男も女もないすばらしい経営者の姿があるばかりだ。

それにしても彼女たちの多くが私とほぼ「同年兵」であり、同じように海外に留学したり、修行に出ているという共通点に驚く。中のお一人は学校こそ違え、ほぼ同じ時期に同じ都市にいたことになる。数キロと離れていない。私自身も正直留学したのはムダであったと何度も感じさせられる体験をこの十年あまりでしているのだが、「好き」を生かした経営者の姿には、ムダはない。著者も指摘しているように、バブル経済の体験すらも実に見事に経営に生かしている。正直、素直に見習うべきであると実感する。

たまたまなのだが、ちょっとしたことで知り合った女性経営者をある経営の勉強会にお誘いした。なんのきなしにお話だけして、フォローすら十分にしていなかった。つい先日お話を伺う機会があったのだが、実にこの勉強会を生かし、自分自身の改革を実現する経営体験をされていた。ほんとうに轄目した。「三日会わざれば」というやつだ。

片方で「跡継ぎ」という呪縛からぬけだせない経営者もたくさん知っている。この違いはどこにあるのかと本書を読んだ今、自分に問えばそれは自縄自縛してしまうか、鮮やかに既成の考え方から自分を解き放てるかどうかにかかっていると言える。こうしかないのだと考えれば、その時点で負けだ。こうもあるああもある、こういう発想だってある、私はこれが好きだ、と思える経営者が長い目で見たら勝つ。目先の利益を追い求め、組織の存続だけを考えていては、逆にそれを失ってしまうだろう。