HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

ライフシフト読了、山積みの問題

読了してしばらく経ってしまったので、一服感があるが本書が示す問題点を列挙しておきたい。読了しても、先日の感想はあまり変わらなかった

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

  • 寿命が各国で伸びている。

これは恐ろしいこと。このまま無策でいれば、ガリバーの不死人の国の悲劇に直結するだけ。

日本の平均寿命の伸び

いや、ガリバーで活写される国の方が冷静に対応しているのか。長いがとても大事なので、引用しておく。

「彼らはおよそ30歳くらいまでは、通常、起居動作すべての点で普通の人間と同じように生活する。しかし、その年齢をこすと次第に憂鬱になり意気消沈し始め」、80歳ともなれば、「老人につきもののあらゆる愚かしさや脆さを暴露」し、「頑固で、気難しくて、貪慾で、不機嫌で、愚痴っぽくて、おしゃべりになる」。そればかりではない。彼らは、「若い時とか壮年時代に見たり聞いたりしたこと以外には、何一つ覚えていない」上に、対人関係もぎくしゃくして、「人間本来の暖かい愛情が分からなくなる」。さらに90歳に達すると、味も分からず、手に入るものなら何でも、飲み、食うだけで、「何か話していても、その途中でいろんな物のごく当たり前の呼び名ばかりでなく、人の名前も、それも親友や親戚の名前さえも、忘れてしまう」。「記憶力が全然役に立たないので、僅か1つの文章も、初めから終わりまでまともに読み通せ」ず「会話らしい会話を、近所の普通の人間と交わすこともできなくなる」。
 1番ましな連中は、むしろ「すっかり耄碌して昔のことを全部忘れてしまっている者たち」である。彼らは「他の仲間と違って、変な嫌らしさがあまりないので、みんなの同情や援助を比較的多くえられる」のである。
 そして、ラグナグ国では、80になると、法的には死んだ者と見なされ、「生活費として僅かな一部を残して、その他の財産はすべて跡取りが相続」し、「貧乏人は公費によって養われる」。また、「この年齢以降、信用や利益にかかわる仕事には一切関係する資格がないものとされ、土地を購入することも、貸借契約を結ぶこともできなくなる」と言う。

文学にみる障害者像 スウィフト著『ガリヴァー旅行記』

*1

  • しかし、所得層によっては逆に短縮している。

ここが一番恐ろしい。この傾向が進むと革命を引き起こす原因となりうる。19世紀は資産格差による所得格差から共産主義がもてはやされ、20世紀になってソ連、中国という恐ろしい結果を引き起こした。21世紀は寿命格差による革命が興りかねない。


  • 答えがない

寿命の問題から、貯蓄の問題、金融知識の問題、ライフステージの問題など、さまざまな問題が本書によって提起される。しかし、矛盾の解決策は本書のどこにも書いていない。多分、世界のどの政府も解決策に至っていない。

本書の著者は相当な知識人であり、インテリジェンスを持つ人々であればこう対応するだろうという前提で書かれている。しかし、寿命が伸びたからといって個人側で長寿命の問題を解決するほどの相当なインテリジェンスとスキルをみな身につけられるかかなり疑問。そのために勉強しつづける、自己改変しつづけることは必須だが、一体誰だけの人たちがそれだけのレベルに達しうるのか?

  • 長寿命時代における結婚と子供問題

本書のモデルに離婚のモデルは扱われて入る。しかし、実際にはライフステージが多層化するのであれば、逆にパートナーとの関係、親族との関係が不安定化するため、結婚、離婚の繰り返し、多世代同居よりも単身化が伸びる帰結になるのでは?パートナーシップも力のある男子と子供を産みたい(産める)女子との関係が増えるのではないか?なんだかんいっても「子はかすがい」なのだ。

hpo.hatenablog.com

  • 寿命が伸びて、子供が産めなくなってからの人生が長くなればなるほど、少子高齢化は進み、「絶滅」の危機すら生じる。

本書が指摘していないことに一番フラストレーションを感じるのはここ。いまの予測において人口が伸びればのびるほど、知的な人類が増えれば増えるほど、子供は産みづらくなる。実際には、出産可能年齢を過ぎて生きている女子の寿命が伸びればのびるほど、人類は絶滅しやすくなる。なぜなら、資源は有限でも知的な人間の欲望に限度がないから。創造的でいる人間であればあるほど自分のために資源を使い、子供を産むためにどれだけの資源を残すのだろうか?

数え切れないほど何度も書いてきたが、私自身もある意味同じ結論に達して自分自身の倫理観との抵触に悩んだ。生殖活動ができなくなってからの人生が長い社会ほど絶滅しやすいと言うことを発見したときは驚いた。

長寿は幸福か? - HPO機密日誌

本書が示す未来は決して明るくない。

*1:本エントリーの参考文献として挙げられている「高橋正雄「『リア王』にみる痴呆性老人への対応」看護学雑誌58巻5号、446~448頁、1994」をたまたま読む機会に恵まれた。大変興味深い論文であった。機会があれば別稿で取り上げたい。