HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

男と女の性的嗜好の差の淵源

一般的な鳥と人間の性が似ているとマット・リドレーは言う。どちらも、多くの雌雄、男女によって構成される群れ、社会で生きながらも、一夫一婦制となっていると。人間とは遺伝的にはごく近いはずの類人猿たちの雌雄の性は非常に多様だ。そして、類人猿の性の典型的な形である一夫一婦、一夫多妻、乱婚型型かに応じて、睾丸の大きさ、ペニスの大きさが異なる。

睾丸の大きさ(グラム) ペニスの長さ(cm) 性交時間(秒)
ヒト 14 12.7 240
チンパンジー 110 7.6 15
ゴリラ 4.5 3.2 60
セックスは生殖のためにあらず - 赤の女王とお茶を

ゴリラは一夫多妻型であるので、雌を独占しているので精子の注入量は少しでも雄は自分の子供を産ませることができる。これに対し、チンパンジーは群れの中で乱婚であるので、他の雄が性交をした後でも、自分の精子を大量にかつ卵子にまで届かせなければならないので、大きな睾丸、長いペニスが必要となる。性交時間が短いのも群れの中の多くの雌と多くの性交を持つ必要があるから。

人間の睾丸、ペニスは、ゴリラよりも大きく、長く、チンパンジーよりは小さく、短い。類人猿の中では、遺伝的には一夫一婦制を忠実に守る種と、乱婚の種との間と分類される。では、実際にはどうなのか?ここで鳥との比較が出てくる。前回、引用の代わりに画像で代用した部分を書く。

(ベイカーとベリス)二人の研究は選ばれたカップルから収集したサンプルと、雑誌のアンケートに回答した4000人の調査に基づく。(中略)卑見の婚外交渉について訪ねたのだ。夫に忠実な女性の場合、オルガスムの55パーセントは持続性の高い(妊娠率の高い)タイプであった。不倫をしていた女性の場合、妊娠率の高いタイプのオルガスムは、夫との性交では40パーセントであるのに対し、恋人との性交では70%であった。しかも意図的にしろ、そうでないにしろ、忠実でない女性は一ヶ月のうちで一番妊娠しやすい時期に恋人と交渉をもっていた。つまり、こういうことである。被験者のうち、夫に忠実でない女性は、恋人との性交渉よりも夫との性交渉を倍もったとしても、それでも夫の子どもより恋人の子どもを妊娠する可能性がわずかに上回っていたのだ。
ベイカーとベリスは、こうした結果を、男女間の進化的軍拡競争、すなわち赤の女王ゲームの証拠であると解釈した。しかしそれは、女性が進化的に一歩先を行っているゲームである。男性はあらゆる方法で父親になるチャンスを増やそうとしている。(以下略)

マジで女は産みたくなったら子供を産める - HPO機密日誌

「男女間の進化的軍拡競争」というのは、男、夫側はより明確に不倫を行うことができるから。女、妻側としては自分に望みうる自分と子どもの面倒を見てくれる夫を確保しておいて、より自分の望む男との間の子どもを産むことができるというメリットがある。書いていて、気が滅入るばかりなのだが・・・。

なんとカッコーだけだと思ってた托卵、メスの不倫が鳥一般で四割だと言う。メスに協力してオスは精一杯巣作りに励むのに、そこで育つ卵の四割が他のオスの精子による卵だなんて耐えられない。この事実は人間においても、当てはまる可能性があると。言うまでも無いが、男、オス側にはその子供、卵が本当に自分のものか確証はない。

托卵四割 - HPO機密日誌

さすがに四割までは達しないらしいが、一般に想われているよりもかなり多く、夫は自分以外の子を育てさせられているらしい。

彼ら(ベイカーとベリス)は人間における妻の不貞の程度を測定しようとした。リヴァプールのある集合住宅で遺伝子鑑定を行った結果、戸籍上の父親の実際の子どもであったのは、5人につき4人以下であった。残りは明らかに第三者が父親であった。

更に、男女の性的嗜好にもこの「軍拡競争」は影響すると想われる。

(エリスとサイモンズによればいくつかの男女共通の性的「妄想」以外の)他のあらゆる項目では、男女間に大きな相違が見られた。男性はセックスの妄想にふける頻度が高く、空想するパートナーの数も多い。三人に一人の男性がそれまでに、1000人以上を空想したと回答した。それほど多くのパートナーを空想したのは、女性ではわずか8パーセントである。女性のほぼ半数が妄想中にパートナーを交換したことはないと回答し、男性の場合はそれがわずか12パーセントであった。男性にとっては、パートナー(たち)の視覚的イメージが、触覚、相手の反応や感情、情緒よりも重要であった。女性の場合はこれと逆だ。相手の反応よりも自分自身の反応に妄想をめぐらせる女性は、男性の二倍いた。しかも女性は圧倒的に、なじみの相手とのセックスを空想するのだ。

ということで、以前引用させていただいたオナニー好きの女性のひと言は決して特殊ではないということになる。

“人間相手で挿入されるのが気持ちイイと学習する場合、丸1年間、セックス時に相手を気づかってくれる男性と根気よくセックスしなくてはならないが そうゆう男性にはもれなくすでに他の女がいる。”
たのしいディルドオナニーのやり方 - Togetterまとめ

http://hpo.hatenablog.com/entry/2017/07/27/233000

更に、同性愛と遺伝子とホルモンの関係についてマット・リドレーは述べている。男女格差の問題、同性愛と異性愛の問題は、国民全員(特に男に)ホルモン投与すれば解決しうるとシニカルに述べている。

ともあれ、ことほどさように男女の性は性的嗜好から結婚の形態に至るまで男女間の「軍拡競争」の結果であるということになる。男にとっては恐ろしい結果ではある。その感情面については別のエントリーを改めたい。