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HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

高橋是清の残した足跡

ブラックマンデーサブプライムリーマンショックといったブラックスワン的事象や、日本における国債の積み上がり、日銀の国債引き受けといった財政の事態を見ていると、これまで起こったことのない世界の終わりののような事件が起こったように思えてくる。しかし、「高橋是清」を読んでいると、この空の下にひとつも新しいことなどないのだと思い知る。過去の歴史にはよくよく学ぶべきだ。

大恐慌を駆け抜けた男 高橋是清

大恐慌を駆け抜けた男 高橋是清

あまり素人の私が一般的な教訓をひきだすには、本書には松本氏のあまりに膨大であまりに卓越した知見が詰め込まれている。それでも、本書を読了して思ったことを書いておきたい。主になぜ日本は太平洋戦争を起こしてしまったかという観点から、歴史を追っていきたい。


■ 日米対決の始め

勝ちすぎるとろくなことはない。日露戦争に勝ったとは言え、賠償がとれず経済的には負け戦であったと本書は指摘している。戦費調達で高橋是清は名を上げた。しかし、日露戦争が1905年(明治8年)に終結してから1914年(大正3年)に第一次世界大戦が始まるまで、日本は財政的にも、経済的にも困窮する。1918年(大正7年)まで続いた第一次世界大戦はまさに「天佑」であたっと。驚くほど経済指標が大正年間を通じて改善している。

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現在の公債費、国民総生産と比較してみるべき。

しかし、日本は勝ちすぎた。本書から引用する。

 帝政ロシアの消滅は、英国にとって東アジアにおける日英同盟の必要性が薄れたことを意味していた。その状況下、大正10年[1921年]には、米国主導の下での四カ国条約締結と引き換えに日英同盟時代は終演する。そして始まったのが日米摩擦の時代であった。
 太平洋では、日本がベルサイユ条約によってサイパン島を含むマリアナ、マーシャル、カロリン、パラオの諸群島のドイツの権益を引き継いだが、それは互いに「一等国」となった日本と米国が太平洋で直接に向き合う状況を生み出すこととなった。


高橋是清の四十二日間

これはすでに書いた。経済的な復興をとげた大正の終わりに起こった関東大震災が社会的、経済的、金融的な危機をもたらし、いわゆる震災手形問題を発生させる。そして、1927年(昭和2年)に発生した金融危機高橋是清は見事に乗り切った。

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しかし、この前後に後の軍部の暴走をまねく事態が生じている。

日本の単独出兵となった第二次山東出兵[1928年(昭和3年)]は、それ以降、中国の反植民地主義闘争の矛先が日本に集中する契機になった。それまでの中国の排外運動は欧米列強全てを目標としており、特に排英運動が強かった。

後に出て来るが、軍人の財政、経済への理解は噴飯物だと指摘されている。独善のうちに大陸における利権を確保し、米国と戦える国力を蓄えるとした石原完爾ですら、高橋是清からすれば大いに間違っている。

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■金解禁のための緊縮財政と農村疲弊

そして、いよいよ国際社会の中で信用を増し、「一等国」として金融も、財政も認められ、外債なども有利に発行できるようにと、金解禁が行われる。このためにとった井上準之助の緊縮財政が間接的に農村の疲弊を産み、「青年将校」と言われる軍部の強硬派を生み出していく。

男子の本懐 (新潮文庫)

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■大陸という夢の終わり

1933年(昭和8年)から高橋是清が暗殺された1936年(昭和11年)まで、経済的には大変成長した。井上準之助の緊縮財政から地方救済予算などを含む財政政策の転換から世界はブロック経済に向かってはいたが、日本の経済は順調に成長していたと本書は指摘する。

しかし、五・一五事件、さまざまな暗殺事件、あるいは閣議決定を無視した軍部の作戦遂行などにより、次第に軍部が発言力を増していく。

「広義国防国家」など笑止千万。「総力戦」の完遂のために、国家体制自体を国防第一に向けろという意味だろうが、それは守るべき国民の生活、経済活動、国家的ストックをまるまる失うことを意味する。「国防」という錦の御旗のために国と国の信頼を失うことなど自己矛盾以外のなにものでもない。

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まして、1933年(昭和8年)以降の経済成長を持って、軍部のおかげ、満州開発のおかげとすることはまったくの誤りだと本書は指摘している。これはとても重要な指摘だ。

財政、国の将来、何を犠牲にし、何を守るべきかを見失った時、国は大きく道を誤る。財政の目を通して将来を考えていくことはとても重要だ。まあ、闇雲な増税はどうかとは想うが、それでも税収を守ること、金融市場の信頼を厚くすること、そして外国に向けても国債が売れる経済環境を維持することは、過去から学ぶべきだと改めて想った。


まだまだ語り足りない。本書の最終章には、松本氏の思いのエッセンスが詰まっている。とりあえずはここで置く。