HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

「速度と政治」

04年頃から考え続けている速度と戦争の問題の解を期待したが本書にはなかった。

ルネサンスに入り、航海技術と竜骨をもつ船を建造する技術がすすみ、いままでとは桁の違う輸送力がうまれ、ヨーロッパ以外の地域での優位性を、ヨーロッパの国々が確保するにいたった。しかし、通信技術はローマ帝国の古代から進まず、航海によりもたされた富だけが先行し、通信手段が進化せず、相互の理解がうまれずヨーロッパを荒廃させる長く、大きな戦争の時代が続いた。ヨーロッパの王族同士の婚姻というのも、実は意思疎通のテクノロジーだったのかもしれない。統治者達が、血がつながっていて、同じ言葉をしゃべるのであれば、まだ意思の疎通は赤の他人よりはましであろう。

距離、時間、そして統治と戦争: HPO:個人的な意見 ココログ版

革命は道からはじまる。「レ・ミゼラブル」のパリ市内のバリケードは道に築かれていた。道こそが戦争の紀元であり、政治的革命の舞台になると。

本書は、あまりに多様な事象に対して同時に記述しようとしてるため大変わかりにくい。速度にかかわるテクノロジーと社会体制の進歩が戦争を変えてきたかを記述している。最後の方で、ヴィリリオ自身が流れをまとめているように思う。

一、工学的運搬具のない社会。女性は兵站的意味における妻、戦争と荷馬車の母の役目を果たす。
二、生きた運搬具としての魂なき進退の無差別的臨検。
三、速度と工学的運搬具の専制。
四、陸上の工学的運搬具に対する生きた運搬具の競合と敗北。
次の最終項目は論理的帰結である。
五、プロレタリア独裁の終焉と時間戦争の中での歴史の終焉。

ちょっとだけ先走ってしまえば、プロレタリアはナポレオン以来、戦争に従事することにより政治の前衛へと登りつめていった。しかし、速度があがっていくにつれてプロレタリアが戦場の主役ではなくなり、市民権との重なりがなくなっていくという。

私の解釈だが、独仏戦が第一次大戦において機動力を相互に持つが故に総力戦になり、何年も続く持久戦となってしまった。それまで、戦争とは速度が遅かったためにごくごく限定されて戦場での事象である、十五とは明確に区別されていた。そして、その速度が加速して第二次世界大戦の総力戦につながっていく。

ヴィリリオ自身の言葉を引用する。

・・・それを短縮する者が戦争の主導権を握る。人は時間についても空間についてもこの一貫した企図を口にし、それを、反復することで敵に課すこともできる。この企図は、歴史を全体化する言語の、道具ではなく起源なのだ。戦争の絶対的本質(速度)を目指すヨーロッパ諸国の、さらには全世界の相互的な努力は、この事実から、西欧の軍事的知性は普遍的な歴史に対し絶対的権力を握っているという意味を引き出す。このとき純粋な歴史とは、もはや地上の純粋な戦略的前進を言い換えたものにすぎず、歴史の能力は先を行くこと、終局的であることに等しくなろう。そして歴史家は、時間戦争の指揮官にほかならなくなっているだろう。」

終章の「緊急事態」に置いて、核とミサイルによって戦争が非局在化、つまりは地球上の全ての場所が戦場となる可能性をもってしまった時代の分析を起こっている。戦争が時間戦争であるなら、その速度が極限に達し瞬間が降臨したのだと。そして、地球上のすべての地域がマジノ戦と化してしまえば、政治の役割は停滞させることにしかならないと。永遠の持久戦に対峙するしかなくなると。

これはしばらく前に、なにかのゲームで世界が核戦争を連続しておこす三カ国に集約されて永遠の持久戦に到達したというエントリーを思い起こさせる。

 投稿者によると、西暦3991年の地球は、数え切れないほどの核戦争によって荒廃し“地獄のような苦しみ”に包まれているのだそう。数多くあった文明のほとんどは滅び、残っているのはケルト、バイキング、アメリカの3つの超大国のみ。核戦争によってほとんどの陸地は人が住めない状態になっており、地球温暖化の影響もあって人口はピーク時の1割未満に減少。3国の戦争は膠着状態のまますでに2000年近くもの間続いており、戦争にかかるコストのせいで都市環境はいっこうに改善されず、住民は常に餓えているという、まさに悪夢のような状態となっています。

日々是遊戯:「シヴィライゼーション2」が予言する西暦3991年があまりにも絶望的 核戦争、放射能、飢餓、地球温暖化…… - ねとらぼ