HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

ギャラクティカ 我が愛、我が時 (ネタバレあり)

以下、思いっきりネタバレ。シーズン4の終わりまで見ていない人には読み続けることを絶対に勧めない。




そもそも、シーズン3を見ているときに、Wikipediaで「そして遠い未来へ」の文字を見た時から、シリーズすべてを見終わるまで見ちゃいけなかった記事だとつくづく反省した。

ストーリーが続くにつれて、「The Cylon Song」が重要な鍵となっていく。例の「ダダダダ、ッダ、ダダダダ」だ。この曲が次第しだいに物語の中核にはいっていく。最初は、バーの古い古いラジオにかすかにチューニングされる曲として。「ファイナル5」の幻聴として。ヘラの絵として。カーラ・スレイスの父親の曲として。地球への道しるべとして。

見終わってから、この曲が実はボブ・ディランの「All Along The Watch Tower」なのだと知ったときは、「猿の惑星」のラストの自由の女神なみの衝撃を覚えた。

なんたって、メロディーだけでなくボブ・ディランの歌詞までしっかり出てくるわけだ。ボブ・ディランという一度きりの時間の中で生まれたシンガーソングライターにしかこの歌詞は書けない、この曲は作れない。一度きりの時間の中で、この物語は遠い遠い未来のことでしかありえないということになる。

"There must be some way out of here" said the joker to the thief
"There's too much confusion", I can't get no relief
Businessmen, they drink my wine, plowmen dig my earth
None of them along the line know what any of it is worth.


"No reason to get excited", the thief he kindly spoke
"There are many here among us who feel that life is but a joke
But you and I, we've been through that, and this is not our fate
So let us not talk falsely now, the hour is getting late".


All along the watchtower, princes kept the view
While all the women came and went, barefoot servants, too.


Outside in the distance a wildcat did growl
Two riders were approaching, the wind began to howl.

All Along The Watchtower Lyrics - Bob Dylan

そして、ボブ・ディランのこの曲は「イザヤ書」にまでさかのぼる。

はっきりしているのは、この歌詞が旧約聖書イザヤ書にインスピレーションを得ているということでしょう。

見張塔からずっと/ボブ・ディラン、ジミ・ヘンドリックス - ホテル・ジワタネホの洋楽訳詞ブログThe Cinema Show - Yahoo!ブログ

当該の箇所はここだろう。

21:6
主はわたしにこう言われた、「行って、見張りびとをおき、その見るところを告げさせよ。
21:7
馬に乗って二列に並んだ者と、ろばに乗った者と、らくだに乗った者とを彼が見るならば、耳を傾けてつまびらかに聞かせよ」。
21:8
その時、見張びとは呼ばわって言った、「主よ、わたしがひねもすやぐらに立ち、夜もすがらわが見張所に立っていると、
21:9
見よ、馬に乗って二列に並んだ者がここに来ます」。彼は答えて言った、「倒れた、バビロンは倒れた、その神々の像はことごとく打ち砕かれて地に伏した」。

Wikisource: イザヤ書(口語訳)

「見張り所」、「馬に乗って二列に並んだ者」が、「watchtower」、「Two riders」に対応するのだろう。そして、社会が不正に染まるときにそのバビロン=「帝国」が崩壊していくと。

そして、「Cylon Song」、「All Along The Watch Tower」が預言した繰り返される「帝国の崩壊」がラストのラストシーンで語られる。「コボル、壊滅前のカプリカ、この地球の前の本当の地球」と。帝国は繰り返し崩壊していくと。シリーズの終わりがラジオから流れるボブ・ディランの曲でしめくくられることがあまりに象徴的だ。いや、象徴ですらない。帝国は必ず崩壊するということ自体を指し示している。そして、この物語が遠い未来の物語であると同時に、遠い過去の物語であると。

All of this has happened before and will happen again.

歴史が繰り返す要因として語られるのは、「Let a complex system repeat itself long enough, eventually something surprising might occur.」つまりは、複雑系であり、べき乗則であると。長い長い時間の中では、繰り返しの時間が生じてもそれほどSurprisingではないと。ここにもまた私としては循環がある。

ああ、やっぱりと調べて見て納得した。

生い立ち
1941年5月24日、ミネソタ州ダルースに生まれる。祖父母はロシアのオデッサ(現ウクライナ)やリトアニアからの移民であり、父エイブラハム・ジマーマンと母ビアトリス・ストーン(愛称ビーティー)は小規模だが絆の固いミネソタアシュケナジムユダヤの一員だった。

ボブ・ディラン - Wikipedia

「12の部族」、「12人の人型サイロン」、ディアスポラを想わせるアイテムはこの物語の中にたくさん詰め込まれていた。そして、最後にボブ・ディランの曲をもってくることでとどめを指された。