こっそり撮ってしまったので、某所で見かけたとしておこう。戦時中の資料が詳細に展示されている中、大変興味深かったのが「と号空中勤務必携」だった。
「と号」作戦とは、いうまでもなく太平洋戦争末期の特別攻撃、いわゆる特攻のこと。一般にはやぶれかぶれで発令されたと思われがちだが、こういう資料を見ているときちんとマネジメントにかなった形で遂行されていたのがわかる。
1ページ目からしてマネジメントの真理をついている。
先ズ肚ヲ決メヨ
シカル後
これだけのことが1ページに大書してある。こころ見なければ先へすすめない。「肚」の大切さとは戦争に限らず経営者にとっても同じ。肚が決まらなければ、なにをやっても最終的な成果につながらない。ほぼ無駄死にをする。
隊長の心得も的をついている。
「鬼手仏心」とは、私の職場ではよく言われる話だ。また、どう部下を信頼して仕事を任せるか、任せた上で任せっきりにしないかは、現場マネジメントの妙。
合理的でもある。
中途から還らねばならぬ時は
明朗に潔よく還って来い
飛行場を一周せよ
田まっていたら小便をしろ
故障などで任務の達成が見込めないときは、意地を張らずに帰ってこいと書いてある。小便をしろというのは、ユーモアなのか、帰還者の恥をそぐための配慮なのかわからない。
ユーモアという意味では、任務の最後の特攻の瞬間の心得も、シャレが聞いている。
この「必携」が想定している隊員の年齢は25歳らしい。果てして、母の顔が浮かぶのか、母でない女の人の顔が浮かぶのか、微妙な年齢かもしれない。
「ソレカラ モウナイヨ」もどうとらえるかは微妙。いまの私が読めば涙も出る。
以後、敵の艦影の識別の仕方、気象に関する基礎知識、編隊飛行、突撃時の進入角度など、図表を交えて実に合理的に書いてある。陸軍航空隊の誇りはこういうところにも出ているのかもしれない。