iOSのアップデートで青空文庫リーダーが読めなくなり、しばらく「明暗」を読み進めなかった。
- 作者: 夏目漱石
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/01
- メディア: 文庫
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読み直し始めて、最初に読みかけた時には伝わらなかった閉塞感が伝わってきた。この物語は支配する愛を語っている。
ただ愛するのよ、そうして愛させるのよ。そうさえすれば幸福になる見込はいくらでもあるのよ
(中略)
ただ自分でこうと思い込んだ人を愛するのよ。そうして是非その人に自分を愛させるのよ
女にとって男を愛するとは、男を支配する道なのだ。男を支配することにしか幸せはないと思い込むことほど不幸はない。
リアルの世界は、支配しようとする意思が混雑している。自分の意思を無理やりに通すことを「暴力」と呼びたい。愛だと口ではいいながら、愛の名のもとに相手を支配することは暴力だ。
愛と嫉妬と支配と暴力 - HPO:機密日誌
理屈で言えば岡本の言うとおり。
男が女を得て成仏する通りに、女も男を得て成仏する。しかしそれは結婚前の善男善女に限られた真理である。一度夫婦関係が成立するや否や、真理は急に寝返りを打って、今までとは正反対の事実を我々の眼の前に突きつける。すなわち男は女から離れなければ成仏できなくなる。女も男から離れなければ成仏し悪(にく)くなる。今までの牽引力がたちまち反撥性に変化する。
好きで好きで、相手が女神にも思えて、この女と一緒にならなければ幸せはないとすら感じて、男は女と結婚する。結婚してもまだ熱烈に相手を愛することもできる。しかし、それは夫婦和合ではない。成仏への道ではない。
先ほどのお延の言葉の先はこうなる(に違いない)。
「だって、『愛している』って言ったじゃない。『愛している』なら、私がいくらお金を使おうと、他に男を作ろうと、あなたは許さなくてはいけないのよ。あなたの意思なんてどうでもいいの。あなたはただ私を愛してさえいればいいのよ。」
「ゼロで割る」と「Intolerance 〜あるいは暮林助教授の逆説〜」 - HPO:機密日誌
かくて女の愛は男にとって狂気に変わり、男は女から離れなくてはならなくなる。このぎりぎりの愛を超えて和合する夫婦もある。お秀のように愛をあきらめて平穏な幸せを得る夫婦もある。ひとつ屋根の下に共に住みながら相手への無償の愛を注ぎ続けられる夫婦もある。激しく反発性に変化しなければたちいかない夫婦もまたある。
男と女の明暗をわける分水嶺がここにある。