HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

「天才たち、神童たち」

「眠いので記事を書こうとしてもまとまらない。」

ま、私にとってはよくあること。これを認知心理学的に言えば、「本来睡眠している時間帯では、脳の一部がすでにお休みモードなので、記事を書くだけの処理リソースをふり向けられない。」ということになる。

認知心理学で有名な実験に、よく知能検査などに出てくる立体図形の照合の問題があるが、答えを出すのにかかる時間と、回転角が比例するといものがある。回転させるにも記憶や空間的な変換など、認知的リソースが必要だということ。

数覚とは何か?―心が数を創り、操る仕組み

数覚とは何か?―心が数を創り、操る仕組み

サヴァン症候群ですら、情熱のたまものであるという話しはすでにした。本書の「天才たち、神童たち」の章ではより詳しくこのことを実証している。どんなに天才的な人物でも、やはり認知学的リソースの割当という問題からは逃れられないというのがひとつの結論。非常に計算の早い「神童」であっても、認知的アルゴリズムによって予想される計算のステップ数と、いくら電光石火のスピードであっても、答えをだすのにかかった時間は比例するのだという。これは、ラマヌジャンのような天才でも、普通の人間と問題を解くための神経生理学的な基盤は同じであることを示唆している。

非常に面白かったのが、言語的な知能指数が50に達しないにもかかわらず未来でも過去でもある日にちを聞けば、曜日を答えられるサヴァン症候群の少年のアルゴリズムと、神経ネットワークシミュレーション結果との比較だ。驚くべきことに、神経ネットワークシミュレーションで、ということは回線のコネクションだけで、任意の日付の曜日を答えることができるのだということだ。これは、言語的な知能を必要としないで数学的な演算が脳内で可能である可能性を示す。

さらに、興味深いのが数学的な天才にとって数はひとつひとつ言葉のように意味を持つということだ。英国の有名な数学者であったハーディーとラマヌジャンの会話が紹介されていた。

「ここに来るときに乗ったタクシーのナンバーは1729だった。つまらない数だな」とハーディーが言うと、ラマヌジャンは「ハーディー、それは違うよ。それは魅惑的な数だよ。1729は、二つの数の三乗の和を二つの異なる方法で表現できる最小の数だよ。つまり、1^3+12^3=10^3+9^3」と反論した。

数学が大好きなひとたちにとっては、タクシーのナンバーであろうと、芝居の台詞であろうと、すべては数で表現されて初めて彼らの興味の対象となる。大好き数字のことをいつも考えていて、そうでないひとたちにとっては無味乾燥に想える数字が「魅惑的」に彼らには写る。

さらに、数学的な業績を残した人々の考え方を検証していくと、数字と空間的な感覚がモダリティがあることが指摘されている。対角線論法ではないが、純粋に数字の問題であっても空間的な変換の対象となって、はじめて新しい数学的な発想を生むことが多いのだという。最初にもどれば、空間的な把握も、認知的なリソースの割当の問題になってくる。

ま、うだうだ書いたが、天才や神童といわれる人たちも、脳の構造や、認知的なリソースについては、大して変わりがない。ただ、「好きこそものの上手なれ」であって、「大好き!」という情熱がすべての源なのだということだ。

私も正直、学生のころ学んだ認知心理学的な知見に触れることが、四半世紀も過ぎた今でも大好きなのだなと改めて本書を読んで感じている。

ということで、そろそろ脳内リソースが、神経ネットワークの論理的な思考を継続できないほど足りなくなってきているので、もう寝る。