HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

「政治におけるネットワーク」 鳩山由紀夫論文

次の首相になられる鳩山由紀夫次期首相のネットワーク分析の論文が見つかった。1990年だから、20年前だ。なかなか面白い。全文を打ち直したい誘惑に駆られる。

ソ連ゴルバチョフ大統領がペレストロイカを唱え、昨年末から東欧世界が共産主義から民主主義・自由主義へと大きく移行を開始した。なぜこのような変動が起こったか、それは必然であったか?
国内では米国から200項目以上の要求を突きつけられた日米構造協議が行われ、日本は弱腰であるように見える。7月には報告をまとめねばらないが、米国からの攻撃は、いわゆるスーパー301条も見えかくれしながら、今後も続くものと思われる。なぜこのような摩擦が起きたのか、それは必然であったのか?
国の内外を問わず、政治的な行動は極めて複雑な要素が絡み合っているので、けっして単純な論理で語られ得るものではない。しかし、ここでは話をできる限り単純化し、政治システムを基本的に、人と人、国と国とのつながりのネットワークと解釈し、政治におけるネットワークの構造上の特性、及び派生する問題について考えて行きたい。いま、日本の政治に求められているのは、経済発展の狭間に生じ拡大してきたさまざまな歪を迅速に解決する力であろうが、むしろ迅速な解決がほとんど不可能になっている現在の政治構造そのものが問題であると思われてならない。
政治システムにおける人と人とのつながりと言う場合、いわゆる義理人情型の人間関係や、組織の中での人間関係、あるいは政治的要求の陳述側と処理側の関係などいろいろ考えられるが、ここでは種類は問わない。また、人間の絆は本来強弱関係であろうが、いずれにせよアバウトな議論であるのでお許しいただきたい。


表1に国の一般会計歳出予算を歳出分類に示す。各分類毎の経年変化が小さいことが分かる。平成元年度予算は地方交付税交付金の増加が目立つ。また、NTT株式の売却収入の活用により、産業投資特別会計繰入が、この2年間それぞれ1兆3千億円計上されているが、これは特別のケースである。他の分野は、際だった変化はなく、国債費、文教科学費など額は増加していても予算に占める割合は減少している。恩給費、中小企業対策費、食管費は多少増加傾向にあり、防衛費、経済協力費は増加しているが予算全体に占める割合にドラスチックな変化は見られない。このように、歳出予算は、数年まとめれば傾向を見ることができるが、各分野の毎年の変化は小さい。この状況は各分類のより細目を調べても同様である。すなわち、各省庁の各課の予算の割合は毎年ほとんど変化がない。一例として、公共事業関係費の内訳の推移を図1に示す。昭和35年から十数年の間は、現在と比較して、確かに下水道や住宅より道路整備や災害復旧費が重視されていたことがわかる。しかしながら昭和60年以降、否、災害復旧費の減少を除けば、昭和55年以降、内訳の比率にほとんど変化がみられなくなっている。米国から指摘されているように、下水道、道路、公園などの社会資本整備が先進諸外国と比べてとくに遅れているが、容易にそれらに対する予算の比率が増えていく仕組みにはなっていない。予算の定常化、硬直化は社会変化に対応し得る予算編成を困難にしている。
例えば、北海道においては、公共事業の経済に及ぼす効果は大きい。しかし、農業基盤整備や港湾事業はピークを過ぎており、他方、道路や下水道の充実が強く望まれる。だが、残念ながら予算のシフトはたとえ同一省内予算であっても事業がさばけない。他方では予算が足りずに事業が十分に進捗しないといった状況になっている。
地域活性化のプロジェクトの遂行にあたって、数省庁の利害がぶつかり行き詰ることや、ある省の予算でまちづくりを計画していた町が、その計画地の中に他省の予算でできた施設があったおかげで困難に直面したり、国民からみれば何とも不思議な現象が随所で起きている。いわゆる省庁間の縄張り争いである。
官僚の組織は巨大である。役人は入省後若いうちに、数年他省に出向することは多いが、残りのあいだはその省内で忠実に研さんを積む。政治的判断を要する場合は別として、予算の大半は課長クラスで作られるので、自分たちの守備範囲の予算が削られることには大変に敏感である。出世を考えれば至極当然であろう。また、許認可権を以上することなど、自分たちの有する権利を手放すことには、それがたとえ時代の流れと感じていても、大きな抵抗をせざるを得ない。保身術を身につけた賢明な集団である。同期はむしろ競争相手であり、横の人間関係以上に縦の組織的関係が尊重される。官僚社会は生きる知恵として縦型のネットワークを構築する(図2)。かくして強固な役所の機構が作られ、保守的に機能が維持される。そして他の役所と競合する場面では、お互いの権益を守るため、激しくぶつかり合う。
本来ならば、縦割行政や、予算の硬直化に対してコントロール機能を果たすべき役割が政治家にある。誠に恥ずかしいことであるが、コントロールすべき人間がコントロールされているというのが実情である。ではなぜそうなってしまったのか。


国会は立法の府である。国会議員の最大の責務は、時代にあった法律を作り、予算を作成することである。実際は、欧米諸国と異なり、議員立法はわずかに過ぎない。予算は内容の議論と言うより政党間の駆引きの材料である。情けない話である。
政治家は選挙に当選しなければ意味を持たない。そこで、選挙に相当のエネルギーを浪費する。更に、当選しても、政権を担当する政党に属していなければ、政治的に直接的な主導権を持つことができない。衆参ねじれ現象で、野党にも相当なパワーが与えられたが、それでも自民党が今でも主導的な立場にいる。その自民党中選挙区制の選挙で過半数を維持するためには、各選挙区で複数の候補を立てる必要があり、従って味方同士が対決する構図が必然的に生じ、派閥の温床となる。
派閥は政策集団と称しているが、政策をより強く実行させんがため、総裁を生み出すことを目的とする。それ故、派閥間の争いの方が政党間より峻烈である。党には派閥あって党無しと言われるゆえんである。そこで佐藤内閣の時に、政権安定化の手法として年功序列の原則が作られ、いまでも基本的に守られている。この年功序列の下で、派閥間の、時には派閥内のポスト争いが行われる。元来派閥は会長の指導力の下に、いわゆる人間的な絆で結ばれた集団であるので、相互扶助的な色彩を有しているが、年功序列の下で派閥の勢力を維持し、かつ派閥内の無用の衝突を避ける目的で、次の手法が採用される。すなわち、同一の当選回数組は、極力異なる委員会(省庁)を担当すること。そして割当てられて省庁に対して全力を尽くす。つまり法案の成立に予算の獲得に協力をする。いわゆる族議員である。族議員はその協力に応じて役所に評価され、政治的にも強くなっていく。
派閥の人的ネットワークはしたがって図3のようにあらわされる。これは正に人間くささを捨象した単純すぎる図であるが、基本的には派閥においても、官僚以上に官僚的な機構が存在しているのである。かくして各省庁と派閥が固い絆で結ばれる。当然大派閥程役所との絆も強固になり、総合病院として機能する。


官僚と主として自民党の政治家に対して利害関係で結ばれている存在が、財界、利益団体である。政治家と財界、利益団体とは陳述処理と政治献金、票の関係で密接に結びついている。特に圧力団体は自分の業界と深く関わる省庁の族議員に対して、強い関わりを持つ。それだけではない。財界、利益団体に多くの官僚が天下り、業界と役所を結ぶ存在として業界の為に力を及ぼす。官僚の営利企業及び特殊法人への天下りの様子を図4に示す。
これらの関係をまとめてあらわすと表5のごとくになる。お分かりのように、縦割りなのは行政のみではない。日本の社会構造全体が縦割りになっており、その中で、官僚、政治家、財界、利益団体が、それぞれ複雑な絡みのなかで、利益を享受しながら存在しているのである。縦割りの行政を遂行する官僚。その官僚を法律、予算で応援し、政治的立場を強める族議員族議員に利益を守られながら、選挙、政治献金で協力する利益団体。利益団体に天下り、業界を守る官僚。この縦割りのスクラムは強い。外からの圧力には協力に抵抗する。したがって、硬直化しているのは何も官僚のみなのではない。日本社会全体が、わずかばかりの圧力では変形しえない構造になっているのである。
この縦割りの日本の社会構造は、産業が急速に発展していく過程において、巨大な多気筒エンジンの役割を果たした。安定期のいま、長期使用により、シリンダー間の調整の必要が生じ、古くなったエンジンの構造自体もみなおさねばならなくなってきている。ひとつは、縦の構造に対して横の関係を強化することである。と同時に、縦割りの社会構造に組み込まれていないグループから、日々不満の声が聞こえてくるようになった。かやの外に置かれていたのは、野党であり、消費者であり、また外国である。今日、彼らの不満を解消させることが、日本の構造調整の最大の眼目である。そのためには、何としても巨大な縦割りの構造にメスを入れていかねばならない。その行動は、まさに至難と言わねばならないが、挑戦を怠ってはならない。方法に関して、おもいつくまま箇条書きにしてみた。


1.野党の強化 → 開かれた政治、2大政党
      ← 小選挙区
2.消費者団体の充実 → 流通、生産団体への圧力
3.外圧の利用 → 土地、流通
4.省庁間の交流の拡大 ← 局長のプール制
5.派閥運営の見なおし ← 年功の廃止
   → 弾力的思考 → 横のコントロール
6.族議員の脱却 → 省庁間の調整機能の回復
7.官僚の天下り先の規制強化
8.政治資金規制の強化
9.内閣総理大臣の権限の強化(含む大統領制)


最後に国と国とのネットワークに関して一言触れておきたい。世界各国はそれぞれ国内のネットワークを有している。日本については述べた通りであり、歴史的経緯で、各国は独自のネットワークを持っている。情報が発達するにつれ、軍事的衝突の危険は回避されるようになり、世界は軍事的なネットワークから経済、社会、文化的なネットワークへ移行していく。EC統合のような経済おブロック化が世界中に広がることはけっして望ましくないが、情報ネットワークが密になるほど、一般に世界全体はより良い社会を、より豊かな経済を求めて動くようになる。同時にそれは、外交による内政上の課題の増加を提起する。世界的視点に立っての国内制度の再編成は、一方では東西ドイツの統一を包含した東欧世界の民主化、自由化、ソ連ペレストロイカ、他方では日米小僧協議、コメの自由化問題を生む。今後とも摩擦は続くであろうが、摩擦は回避するものではなく、世界全体、さらに日本をもよりよい国に変化させるための薬と解釈すべきである。
2ヶ月前、サッチャー首相にお会いしたときの言葉である。私たち西側の国は、大いに西側の情報をソ連や東欧の国々に対して、あらゆる媒体を用いて知らせた。そのおかげで、彼らは決して後戻りのない民主化自由化の道を進み始めた。いま、あなたはアジアの中心たる民主国として、中国、北朝鮮ベトナムの国民たちに対して、私たちが行ったと同様の行動をとるべきではないでしょうか。

あー、結局全部打っちゃった。ネットワーク分析に興味を持つ知ろうとしては、政治にお詳しい鳩山次期首相がこんなに明確に分析してくださったことがうれしい。

また、情報の流通が世界の在り方を変えるというご意見にも実に賛成。

読んでみて、打ち直させていただいてみて、実に違和感がない。期待してくなってきている自分がいる。


■「友愛」とは「ネットワーク」の言い換えでは?

最近の論文の論調もあまり変化されていないと見た。とすると、鳩山次期首相の「友愛」とは?

特に議論を混乱させるのは、ご都合主義的に曖昧に使われる「友愛」です。

鳩山由紀夫氏の奇妙な「友愛」 - 池田信夫 : アゴラ - ライブドアブログ

さらに。

これには、利益の上がる民間企業からの税収の増加や、1980年代の電電公社国鉄売却と同様の資産市場へのデフレ阻止支援、さらには、家計部門の投資収入の増加が含まれる。

米人元民主党立法スタッフのすばらしきご助言: 極東ブログ

鳩山論文でご自身でNTT売却益について触れているところがアイロニックかなぁ。