HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

ブラックスワンが棲む「果ての国」の道徳律

ブラックスワン」のここが日本語で読めただけで、私は幸せ。

ロング・テイルの果たす役割は、まだはっきり数字に表れるところまでは拡大していない。ウェブや小規模なオンライン・ビジネスに限られている。でも、ロング・テイルが今後の文化や情報、政治に与える影響を考えてみるといい。支配的な政治勢力や学会の体制、マスコミの塊などから私たちを解き放ってくれるかもしれない。凝り固まって、のぼせ上って、自分ばかりが大事な大家の連中の手にあるものは、なんだって取り返せる可能性がある。ロング・テイルは認識の多様性を助長する。

(中略)

ロング・テイルは進化に似た働きをする。ロング・テイルのおかげで、私たちはおおきな構造を覆し、プラトン化した唯一のものごとのやり方を捨て去ることができる。最後には、理論から解放された草の根の実証主義者が勝つ。


引用させていただいたタレブのことばは、そのまま私がべき分布について考えたひとつの結論とひびきあっている。

べき分布のグラフを見ていると運命論的に、強いもの大きいものの「winner takes all」な状況は固体化されてしまっているように感じるが実は違う。常に小さきものの中から独自性をもった大きなものへの運動が起こり続け、強いもの大きいもの少ないものが倒されていく中で均衡をとっている。倒されるときにサイバーカスケードが起こる。それは、あたかも、極小から極大へ向かい、極大の中に次の極小がの種が埋め込まれている大極のごとくだ。

小さきもの、弱きものへの慈悲 - HPO機密日誌


べき分布とは太極なのだとこの時感じていた。


では、ブラックスワンが飛び立つことをどう抑えるのか?あるいは、せめて灰色でいてもらうのか。タレブが面白いことを言っているので、少々長いけど引用させていただく。

宗教が問題を和らげてくれる。キリスト教以前、力のある男が奥さんを大勢抱えられる社会はたくさんあった。そういう仕組みだと、底辺にいる男たちには子宮がまわってこない。覇者(アルファメイル)が生殖活動を独占する種はたくさんあって、それとあんまり変わらない。でもキリスト教がそれを覆し、一夫一婦制をルールにした。イスラム教は奥さんの数を四人までに限った。ユダヤ教も一夫多妻制だったが、中世に一夫一婦制を採用した。彼らの戦略がうまくいったのだと言えるかもしれない。(ギリシャ・ローマ時代みたいな公認の側室制度がない)厳密な一夫一婦制は、「フランス流」のうまいやり方でさえ、社会に安定をもたらす。性的に抑圧された底辺の怒れる男たち吹き溜まって、セックスできるチャンスをつかもうと革命を企てたりしなくなるからだ。

つまりは、「黄金の中庸(アウレア・メディオクリタース)」の道だと。一夫一婦制が中庸の代表例だとは知らなかった。