HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

「呪縛なき秩序」と「旅の仲間」

安冨歩先生の最新巻を一年遅れで読み終わった。安冨歩ォッチャーの私としては、本書成立の2回のシンポジウムをのがしていたことを含めて、怠慢としかいいようがない。

ハラスメントは連鎖する 「しつけ」「教育」という呪縛 (光文社新書)

ハラスメントは連鎖する 「しつけ」「教育」という呪縛 (光文社新書)

本書はハラスメントの横行する現代を生きるために重要なヒントを私にくれた。大変おせっかいだが、強烈なハラスメント環境を経験されたid:reponさんがどのような感想を本書に対して抱くか、読んでいるうちから想像することを禁じ得なかった。

タガメ女とカエル男」のまことに現代的で「ああ、これは私のことだ」という親近感を強烈に感じる例によりハラスメントが描かれ、安冨歩先生の本来の研究領域である満州という植民地の本質に関わる考察や、フロイト精神分析との比較などを経由して、「論語ガンジードラッカー」に至る。いや、その先まで描いているといってもいいかもしれない。

エンデの「モモ」に出て来る「死に至る病」ににた「鉛色の空」の下の満たされない生活からいかにぬけでるかの、安冨歩先生と「旅の仲間」の魂の遍歴として読むことは可能だ。私は本に書かれた以外安冨歩先生のことは存じ上げないが、ガンジー大英帝国の植民地支配への非暴力の抵抗(サッティヤーグラハ=「真実にしがみつく」)、孔子の真理を求める生涯をかけた放浪、ドラッカー全体主義との戦いに匹敵する経験をされたのではないかと想像する。

つい先日友人と話をした。彼は私の「旅の仲間」であり、心を許した会話ができる。話しをしていて私は「チャンネルをガチャガチャ変えながら」仕事をしていることに気付いた。ひとつひとつの仕事を「パッケージ化」したものとして扱い、「魂」をかけて深みのある仕事をしてこなかった。

「パッケージ化」とはなにか?本書の中から引用したい。

情動を抑え込み外的規範に従った姿、それは精神病質に他ならない。

その瞬間瞬間にかんじたものを自分とするのではなく、自分が設定したイメージを自分とすることがパッケージ化である。情動を感じる「今」の自分こそが「本来の自分」であり、パッケージ化は「自分に対する裏切り」と等価である。

つまりは、外的規範をうちに取り込んでしまい、自分の情動以外のものを基準として行動することだ。私の「チャンネル」とは、「外的基準」のセットをその場その場で情動を無視して変えてしまう行動だと私は思った。

ああ、これから書こうとすることには二重、三重に私の倫理規定に反するのだが、安冨歩先生にならい「魂の断絶」の壁を打ち崩すこころみとして告白したい。

私はごくちいさなころから「同時並行的に仕事をこなさなければリーダーにはなれない」と父親からしつけられて来た。ちなみに私の両親と安冨歩先生のご両親は同年輩と言っていい。これは処世訓として私が様々な試験をパスし、社会人としてそこそこの地位を占めるのに大変効果的であった。感情や情動をできるかぎり抑制し、「論理と倫理の導くところ」に従い生きることは私には容易であった。ある時点までは。

傍から見れば、私のこれまでの人生はなに不自由なく推移してきたように見えるだろう。しかし、内面的には大きな「断絶」を抱え苦しみがあった。克服できたとはまだとても言えない。ただ、こころある方々から注がれた愛と、友人から紹介された縁で始めた道元禅によりここまで生き延びてこれた。禅と本書の内容のいくつかは重なっている。

まだ十分に自分の中で言葉になっていない。注意深く見つめて行きたい。


■参照

本書についてのすばらしいのエントリーを見つけた。さすがはてな村

植民地支配は、制度的なハラスメントである。個人的なハラスメントは、だから、心の植民地支配である。昔、ある大学の先生と話していて、とても嫌な気持ちになったことがあった。そのとき、日記に、苛立たしげに「まともな人は自分と同じ思想を共有すると考えている」と書き付け、彼らのことを「ぷちコロニアリスト」とひそかに名づけていた。その一方で、「自分は無力で、非力だと思っている/何かを遣り遂げるには、自分はあまりにも小さく、弱く、頼りない/俺にはまっとうなことは、何一つできない」と書き付けてもいた。ん、「魂」が呪縛されかけている…。

http://d.hatena.ne.jp/kizimuna/20070608

バラが王子にさまざまな不快なことを言う。王子は自分のせいだと思う。誰かに相談する。相談相手のキツネが、実は最悪のパターンのカウンセラーで、王子の自己否定を極大化させてしまう。その結果王子は自殺する。―― 一つの解釈としてはあてはまるように思う。

2007-05-18 - ergo sum

正直、本書の中に大切なキーワードがいっぱいで、ひとつひとつを大事に説明してくれている。その辺をまったくねぐってこのエントリーは書いているので、興味をもたれた方は本書自体を読んでほしい。


■追記

ハラスメントの行き着く先としての全体主義と闘ったドラッカーが行き着いた「マネジメント」は、全体主義を打ち砕くインパクトがあると本書の中で評価されていた。

20世紀のビジネスは、確かに貧富の差を拡大し、資源を収奪し、地域文化を破壊してきた。しかしそれを解決できるのもまたビジネスであり、そうしたビジネスこそ、21世紀型の「持続可能なビジネス」であるというのが本書の主張である。

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