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HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

「ピアチェック」は実在するのか?

改めて疑問に思っていることがある。今回の改正建築基準法で鳴り物入りで導入された構造計算適合性判定制度だが、当初は「ピアチェック」といわれる制度が諸外国にはあるというがその根拠であったように記憶している。

このプロ同志でチェックする仕組みは、実は欧米では、ピアチェックとよばれ昔から一般的に行われています。アメリカでは行政の審査機関が、フランスでは保険会社が、ピアチェックを実施しています。建物をたてる時には保険が義務づけられているためです。「プロの仕事は、プロが評価する」のが世界の常識です。

オピニオン番組「視点論点」米田雅子

*1
この言葉が出た当時に相当ネット上で「peer check」という言葉を捜してみたが、建築関連の言葉としては見つからなかった。その状況は今も変わらない。ただ最近、知人から「ピアチェックとは"checkup peer review"の間違いだろう」という話を聞いた。wikipediaにも"peer review"ならきちんと項目は存在する。

Peer review may refer to:

  • Peer review, the scholarly process of screening papers
  • Peer Review (magazine), an academic magazine
  • Peer review, a form of performance appraisal in the workplace
  • Software peer review in software development
Peer review (disambiguation) - Wikipedia, the free encyclopedia

「ピアレビュー」とは、以下のどれかであろう。

  • 論文を審査するための学問のプロセスとしてのピアレビュー
  • 学術誌のピアレビュー
  • 職場における業績評価の形態としてのピアレビュー
  • ソフトウェア開発におけるピアレビュー

[試訳]

あるいは構造工学(structural engineering)の項目を見てもピアチェックもピアレビューも出てこない。もっともwikipediaの建築に関する項目は内容的にはあまりにも初歩的なレベルしか記述されていないのは事実のようだ。日本のwikipedia「耐震基準」の項目と比べてほしい*2

諸外国の建築基準法にあたる建築規定(building code)の項目を見ても、ピアチェックもピアレビューも出てこない。構造に関する記述はこれだけだ。

Structural safety: buildings should be strong enough to resist internally and externally applied forces without collapsing;

Building code - Wikipedia, the free encyclopedia

構造的な安全性:建築物は、内部的あるいは外部的にかかる力に耐え崩壊しないだけの強さを持たなくてはならない。
[試訳]

*3

そもそも欧米の建築法規は地域性が高く全国標準としては「全国建築規定」(national building code)とか「モデル建築規定」(model building codes)しか存在しないようだ。ちなみに、こちらにも構造に関してはほとんど出てこないし、ピアチェックもピアレビューも存在しない。

ちょっとびっくりしたのはこれ。

Comparison of European and Japanese seismic design of steel building structures
Edoardo M. Marino, Masayoshi Nakashima;, Khalid M. Mosalam

According to BCJ*4, the ultimate lateral strength of each story of the structure has to be larger than the design story shear corresponding to strong ground motions (Level 2 design). In addition, the stresses due to moderate earthquakes (Level 1 design) should not exceed the allowable stresses. It is notable that Japan has adopted a system of design peer-review for the past three decades. The review is mandated for special structures like high-rise structures (defined as those not shorter than 60 m) and base-isolated structures. In the peer-review, seismic hazard at the site is considered; site specific ground motions are chosen; and nonlinear pushover and nonlinear time history analyses are carried out to check whether or not the adopted structure satisfies the design criteria. Details of the peer-review are presented by Pan et al. in [13]. The following discussion excludes the design procedure with peer-review and is limited to the introduction of the static-based design approach used for common building structures.

Khalid M. Mosalam | Civil and Environmental Engineering

こんなに引用する必要もないんだけど、「日本国(政府?)は、過去30年間に渡って設計ピアレビューのシステムを取り入れてきたことは注目されるべきであろう」というところにびっくりした。これだけ建築に関する「ピアチェック」の語源を辿ってみて、なんのことはない世界に先駆けて日本はすでに超高層建築においてピアチェックを導入している実績があり、これは世界に誇りにすべき先進的なことなのだ、と。だからこそ、これを高層ビル以下の構造設計、耐震基準の審査に取り入れても問題はないのだ、と。問題があるとすれば、それは構造設計者のレベルが低いからだ...とまでは言っていないか。

それとも私は例によってあまりに勘違いしているのだろうか?私が達した結論が間違っていることを誰か立証してほしい。

■参照

構造計算の二重チェックって? @ KEN: (仮称)建築屋の社長ブログ
ピアチェックは可能か? @ 余白から指先へ

*1:そういえば、この発言をされた米田雅子さんの本を一冊だけ持っている。

日本には建設業が必要です

日本には建設業が必要です


*2:最もこの項目の最初に「許可」って書いてあるんだけど、いつから日本の建築って許可制になったんだろう?

*3:さすがに構造デザイン(structual design)の項目にはもう少し網羅的に載っている。
>>Structural design as a process has evolved to its modern refinement through hard lessons learned from various structural failures. Structures are divide in to two major categories, viz reinforced concrete (rcc) structures, and steel frame structures. Rcc again can be designed by many methods but two of them are important. One is the working stress method and another is the limit state method. the limit method is widely used for designing rcc structures.<<

*4:日本の耐震基準のことらしい。