HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

実は上から下まで大変革(相転移)の途中であること

なんか今日は思ったより忙しいらしい。論の途中だけど、はしょっちゃおうっと!

実はいま日本は天地ひっくり返し、明治維新以来の大変革の真っ最中なのだ。

明治とは、実は中央政府がはじめて日本の国全体を治める体制を作ることに成功した革命であった。そして、国が中央で治められなければ、当時の人たちが予感していたように、日本は欧米列強によって分割され、植民地化していただろう。

現代における革命とは、なにか?

平成になる前後は大前健一が喝破したように経済大国として成熟社会を迎えつつあった。だから、まだ地方分権をすることにより「軽い」政府、「自由」な経済、そして、「国」という抽象的な存在ではなく、改めて自分のふるさとという「気持ち」の融和をはかることができたかもしれない時代であった。

今は、すでにネットがこの島を覆い、かといってすべてが電脳、電網に載ってしまうほど高度化していない時代である。ネットはこの国を多様化への道に導くのかとも思われたが、現実は限りなく一様な世界への道を加速させている。

しかし、いまこそ日本の国の根本がかわりつつある。そして、その革命の方向はすでに地方分権でも、道州制でもない。爆発的な縮約だ。

近代国家である限り、司法と、医療と、教育は国民の誰もが享受できるようにしなければならない。司法と、医療と、教育は国と国民との根本の約束である憲法の基本だ。これら3つのサービスは、地方分権が進もうと、過疎が進もうと国が守らなければならない。選挙は...もう、かなり失望しつくしているからいまさら書きたくないけど、憲法と法による支配を守る最後の最後の砦である。これはまでは、この3つを中央政府が国民に提供するために「開発」を続けようとすることで経済が動いてきた。ももちさんのおっしゃっていた「経済の開発主義」だ。

今後「国防」を除く生活の部分については、限りなく地方と中央の格差がついていく。なさけないほど提供されるサービスの質が地方と中央で変わるだろう。

今後の日本の形は、ある意味でネット上のべき分布が先取りしている。それは後で議論する。

戦後の日本は、「開発主義経済」で中央から地方へのお金の流れと、逆に地方から中央への人の流れが均衡し、バランスを保ってきた。一億層中流意識を持てた稀有な時代であった。この開発主義経済を支えたのが、自動車や電気など、日本を代表する輸出産業であったのだろう。この根本がこれから変わる。

そう、これだけ根本的な変化を表すには、液体である水が固体である氷になる「相転移」という言葉が似つかわしい。

相転移(そうてんい、phase transition)とは、化学的、物理的に均一な物質の部分である相 (Phase) が他の形態の相へ転移することの熱力学あるいは統計力学上の概念であり、それらを発生機構とする物理現象の総称でもある。

相転移 - Wikipedia

先日某所で、山口浩さんと議論させていただいたのだが、やはり相転移というか、世の中が大きく変わるのはコスト構造がかわるときだと想った。

山口浩さんのこんなすばらしい記事に気づかずに...ああ、恥ずかしい

情報財の計画経済と市場経済 by 山口浩さん

時代が変わるときの条件: HPO:個人的な意見 ココログ版

相転移では、粒子もしくは、人といった構成要素の量はひとつも変化しないにもかかわらず、液体か固体かという構成要素の結びつき方の状態「相」を維持するために必要な「コスト」(エネルギー)が閾値を超え、カタストロフィー的に変化する。分子、構成要素の結びつき方が根本から変わってしまう。そして、その「相」が変化するまさにその「点」に今我々は立っているのだ。

そう、今後生活のためのコスト構造、お金と人の流れが大きく変わるのだ。賃金と購買力が変わり、べき分布するのだ。

建設業に限らず、プログラマーにかぎらず、メイドカフェメイドさんに限らず、自動車工場の季節工に限らず、生存に必要なコストの閾値が変わり、社会の構造がかわるのだ。

これまで、日本の社会はいろいろな約束ごと、調整ごとで成り立っていた。

それは、所得や富の格差をひた隠しにして、「一億平等社会」という幻想を税金だの、公共事業だのといった手法を使って、見事に演出してきた歴史でもある。そして、教育の単位である学校の「クラス」を収容する教室という「場」が、金持ち、貧乏、家柄、性別、などの「クラス」(属性)を剥ぎ取ることにより、スタートポイントの「平等」という夢を与えて来た。

もちろん、それらが民主主義の原則であり、社会を社会たらしめる重要な要素であることは間違いない。

しばらく前にはやったブログ界隈の生産性と賃金の議論に私が興味を持ったのは、こうした「幻想」がいまだにブログ界隈でも信じられているのか、信じたいと希求しているのか、知りたかったからだ。

これから起こることは、ここまで明治以来日本の国の国民のつながり、経済行為、税金の行方、ふるさとへの想い、友達との平等感、政治的な意思決定の仕組み、人と人との関係の仕方、国と国民の間の信頼、といった「絆」が根本から変わること。「絆」が変わるということは社会ネットワークの変化を意味し、ボース・アインシュタイン凝縮のように、一気に集中化し、「Winner takes all」の非常に不安定な世界が現出するということだ。

以前、ランチェスターの法則について考えた。

べき乗の法則が成長という加算を前提にしているのに対し、オリジナルのランチェスターの法則は減算を前提としているようだ。つまり、バラバシの定義だとひとつひとつリンクが追加され、適応度に応じたリンクが張られネットが成長することでハブができるということだ

べき乗則とランチェスターの法則 Lanchester's law and Power-law: HPO:個人的な意見 ココログ版

ランチェスターの法則について考え始めたのは、縮約していくネットワークの中でこれまでのハブが、比率からいえば急速に異常に巨大なハブに転位してしまうのではないかという恐怖からであった。ハブの焼け太り。そして、縮約していく社会ネットワーク全体の大きさと比べて、あまりに大きすぎるハブは、物理現象を引き合いに出すまでもなく、社会全体を非常に不安定にする。

それは、ちょうど100年まえに夏目漱石の「三四郎」が国家というハブの創出を見たのと逆のプロセスである。現在の相転移していく複雑な社会ネットワークでは、成長していくときの安定性とは正反対の、非線形な不安定さを引き起こす爆発的縮約を我々はこれから見るのだ。

そして、いま私が恐れるのは「ぼんやりとした不安」を抱えながらものほほんと生活していた三四郎の後継者である我々は、またこうした騒乱の世紀を生きるのことになるではないだろうかという恐怖だ。与次郎の「ダータ・ファブラ」="de te fabula."とは、「ほかでもないあなたのこと」という意味のラテン語なのだそうだ。

[書評]三四郎 only yesterday: HPO:個人的な意見 ココログ版

大事なことを書き忘れるところだった。このエントリーの動機はももちさんのエントリーのお返事を書こうというところから始まっている。お返事として書きたかったのは、これからおこりうる大変動の前では、私自身の生死がかかっているにせよ一業界の大再編など前兆の前兆にすぎないだろうということ。

恐怖に身がすくむ。

あまりにかけ離れた結論になってしまったので、さすがにももちさんには内緒にしとこっと。


■補論

気が変わった。やっぱり、ももちさんのエントリーにトラバする。そのための補論。

爆発的縮約がすすむプロセスの背景には、生産性と土地の面積との相関がどんどん弱くなってきていることだ。それは、東京一極を頂点とするべき分布的地価図の等高線であり、地域の生産性の「高度差」で日本の地図を描けるようになる。

不動産開発会社に就職して気づいた。現代では、かなりの大会社でもビル一本に収まってしまう。日本全国の需要を支えるような工場でも本の数ヘクタールで済んでしまう。まして、高層マンションという超集中化した構造体には、0.5ヘクタール以下の土地に数千人、あるいは万単位の人が住めてしまう。

これは農業主体であった経済圏から考えると真にボーズ・アインシュタイン縮約な経済構造体なのだ。

さらに現代では、ネットの世界に爆発的縮約は進み、グーグル本社がどれだけの大きさか知らないが、ひとつの会社のひとつの建物で全世界の情報が網羅されてしまうという事態を迎える。ネットは広大なのだ。そして、ネットによって縮約していく世界はもう土地をほとんど必要としない。

縮約していく日本の、そして世界の姿を現した作品として、手塚治虫の「火の鳥 未来篇」をあげたい。

火の鳥 2(未来編) (朝日ソノラマコミックス)

火の鳥 2(未来編) (朝日ソノラマコミックス)

爆発的縮約、ハコモノ2.0を予感させる。コンパクトシティーの先にある手塚治虫が幻視したヤマトシティーの未来だ。このまま行けば、本当に日本がひとつの超構造体からなる一都市とほぼ無人の原野という「火の鳥 未来篇」な事態は夢ではない。そして、幻想を見せてくれるルーピーではないが、人々は土地面積を必要としないヴァーチャルなものごとにのみなぐさめを見いだす。ネット上の広大な資源上で社会生活のほとんどが行われ、意思決定がなされる。

こうした爆発的縮約社会の中で土木・建設業が一体どのようなインフラを整備する主体として、あるいは地域の「つながり」をサポートする機能の担い手としての役割を発揮しるうるのか?ここの回答が出せないと、ももちさんや私が属する業界においての今後の未来像は描けないと私は信じる。


■参照
人類滅亡を扱ったSF作品 @ アルファルファモザイク
あなたの給料が努力や成果とあまり関係なく決る構造を図解 by 分裂勘違い君
資源最適化としての格差社会と社会保障に関して by m_um_uさん


■住宅の飽和 09/07/29

あれから、2年。「爆発的縮約」、「ハコモノ2.0」がいよいよ姿を現したようにおもわれる。

これら、「ハコモノ」や、「空き家」の有効利用方法は、無いものでしょうか?

http://ee-news.seesaa.net/article/123981027.html