HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

男が女を選ぶとき、あるいは女が男を選ぶとき

カウフマンさんの「自己組織化と進化論理」がなかなか読み終わらない。ようやく生物に関する部分は終わったようには感じる。かなり衝撃を受けている。また、全部読了した時点で再度「書評」したいと思っているが、とりあえずあまりの衝撃にのけぞった性の分化についてだけ語りたい。

と、いいつつ一言だけ書いてしまえば、原題の"At home in the universe"は「宇宙の中の自分の家にて」という意味だ。本書は、会話から始まるそれは窓から見える景色がどのゆに形成されたのか、という内容だった。なんというか、ここにいながらにして宇宙を支配する法則を感じるというニュアンスがこめられている原題なのだと思う。当然、翻訳がよいからなのだろうが、本書にちりばめられた詩的な言葉が好きだ、とても好きだ。また、医学、化学にまたがる膨大な知識と洞察を深い言葉で語りながら、ふと「銀河ヒッチハイカーズ・ガイド」が出てきたりするセンスが好きだ。


ま、前置きはともかく男と女がなぜ生じたのかという話しに移ろう。結論から言えば、適応し、進化するためには無性の単細胞でいるよりもはるかに有利だからだということになる。進化を扱う生物学では、適応地形ということがよくいわれるらしい。これは、目が青いか、ブラウンか、背が高いか低いかといったn対の遺伝形質があったときに、水辺や森の中といった特定のある環境の中で、どの遺伝形質の組み合わせが適応度が高いかを図形的にあらわしたものだ。

<グラフ:局所適応、高地>

メンデルの法則が示すように遺伝というのは、デジタルに伝わる。エンドウ豆は黒いか黒くないか、つまり1か0で洗わすことができる。つまり、n対の遺伝形質の違いをは、「10100011...」といった数列で洗わすことができる。一つ一つの遺伝因子は独立で働くとはいえ、当然適応度から考えれば「目が青くて背が小さいと有利」といった相互作用が考えられる。ここがカウフマンのえらいところなのだが、この遺伝因子をコンピューターモデル化し、各遺伝形質のn個の組の適応地形がどのような因子によって定められるかを考察している。

詳細は省くが、結論から言えばあるちょうど山の斜面を登るようにところどころ局所的な丘があったとしても、全体として一定の勾配をもっているような適応度地形で「なければならない」ことを導いている。これは素晴らしいことだ。多少の疑問はあるものの、私がいまこうして文章を書き、ブログに載せると言う行為をできることが、生命の発生から続く適応度の頂点にあるのだとすれば、あまりに自明なことなのだ。最初に発生したなんらかの生命体から、局所的に適応度が周囲よりも高い丘にとどまることなく、斜面を上に上に登りつづけてくれた私の先祖たちにより私はいまここにいることができる。カウフマンは、NKモデルといわれるごく簡単なモデルを使うことにより、私がいまここに存在しているということは、地球の環境というものは、常に上に登ることのできる勾配をもつ適応度地形を生命に提供してくれているということなのだ。

そして、カウフマンは同じモデルを使って、単細胞生物が自分の遺伝形質における少しづつの変異だけでは、斜面の「丘」にとどまってしまい適応度をあげつづけることが非常に難しくなることも示した。さきほどの「10100011...」という数列で遺伝形質を
表すのだとすれば、この中のひとつやふたつの数字(遺伝形質)が変わるだけでは丘を降りて、より大きな丘、より高い高地を目指すことができない。大きなジャンプがどうしても必要なのだ。一方、大きな遺伝形質的ジャンプに必要なほど突然変異がはげしければ、必要な形質を維持できないことも、数学とシミュレーションによって示している。

ここからやっと男と女の話しになる。男が女を見て選ぶことができる、女が男を見て選ぶことができるということは、この問題を解決する。これはちと冗談なのだが、カンブリア紀の生物種の多様化の爆発では、目が身体から飛び出ていて自分を見ることができるものが多く存在したのだが、自分の容姿の現実を素直に見ることができる謙虚な種はすべて絶滅してしまった。以来、自分の姿を省みず、自分の利益を追求する強欲な種だけが生き残り、現在の私達人類にまで到達する。いや、ここまでは冗談なのだが、自分を見ることはできないくせに、異性だけは見ることができ、交配することができる。突然変異に頼らなくとも、自分の目から見て適応度が高い相手であれば、自分も適応しているわけだから、相手と自分の遺伝形質のどちらかが残るのであれば、そうはずれはない。しかも、どちらの遺伝形質が残るのかは、突然変異ではない形でまったくのランダムとなるので、いまの自分とはかなり違う固体を残すことができる。つまり、安全な大ジャンプを各代にわたって安全に実現することができるのだ。